エピローグ

「あのっ、僕の名前は深内守といいます!強くないですが精一杯頑張りますので宜しくお願いします」


 守はかちこちに緊張しながら頭を下げる。


 守を見る皆の眼は暖かい。


 ぱちぱちと拍手が鳴り、守は照れた様子でそれに応える。



 この騒動を知らなかったものも、事件翌日に、御影が説明した。


 風花の姉の雫の死、それはクラブにも周りにも大きな影響を及ぼした。


 あの日、雫と豪と連太郎が亡くなった日から二日後、今回亡くなった人達の合同葬式が教会でしめやかに行われた。


 人はかなり多かった、二階堂家の次女雫、貴族派の連太郎。雫の姉やクラブメンバー達、連太郎の両親や親戚合わせて百人ほどいた。


「兄貴ぃ~ごめんよぉ~、裏切って御免」


「お姉ちゃん、ごめんねお姉ちゃん」


「なんで逝っちまったんだよ馬鹿野郎。三人で最強パーティー作るんじゃなかったのかよ!!」


 三下と風花は棺に縋りついて泣き崩れる。風花を支えているカティナも悔し涙を流している。


 事件が終わってから、三人の遺体は、学園の執行部隊がすぐに回収し、舞先生達と合流した時には、もう無かった。


 そして今日が最後の顔見せだ。


 あれからまだ一週間も経っていない。それでも風花達ははつらい顔を見せず、い気丈に振舞っていた。


 豪と連太郎は都合のいい駒でしかすぎなかった。


 人は少なからず、なにかしらの野心を持っている。


 遊びだったり、勉強だったり、仕事だったり、スポーツだったり。ベクトルが違うだけで本質は一つ・・・・・・欲だ。


 その欲を、増幅させ、自分の思い通りに操った人物がいる。


 そういう意味で、クラブ『夜露死苦』は今回の件で一番の被害者だ。

 

 今回は逃げおおせたかもしれないが、次は必ず暴いてみせる。


 今回の被害者にそう御影は誓った。



「よし、今日のクラブを始めるぞ」


「へっへっへっ、まってくだせぇ旦那ぁ~、おれっちの二度目の復帰宣言がまだっすっよ~」


 三下の発言を無視し、準備運動から始める。


 もちろん、クラブの面々なりの温かい歓迎だ。


 三下もそりゃないっすよっと言ってへらへらと笑いながらおちを言う。





 







 深夜、真っ暗で皆が寝静まった時間、少ない荷物をリュックにまとめ、足音を殺して、誰にもばれないようとある人物が学園から去ろうとしていた。


「何処に行くんだ今日子」


 後ろから御影が声をかける。


「影さんっすか。尋問しにきたっすか。なにも喋らないっすよ。何かするなら舌噛んで死ぬっす」


「そうか、残念ながらそれはできない」


 今日子は体が動かないのを感じる。


「俺はな、どうしても、今回の『敵』を知りたい。そして雫の報復を行う。お前は何も言わなくていい。もうすでに手段は選ばない。今日子、お前らは『敵』だ。何か言い残すことはあるか」


 今日子は裏で生きてきた。だからこの眼は知っている。


 絶対にやるという眼。


 何がいけなかったんだろうか。


 頭が依頼を受けてしまった事。


 自分が受けてしまった事。

 

 雫を見殺しにしてしまった事。


 理由を考えたら色々あるが、触れてはいけないパンドラを開けてしまったようだ。


「やっぱり影さんは鬼畜っす。今日は厄日っすね」


「ああ、そうだな」






 この日、スラムの頭率いる組織が壊滅し、数人の学園生達が何者かによって殺された。






 賭で言うと、今回はフィクサー側の一人勝ちだった。依頼金も失敗という形で払わず、目的の大部分を成功させた。


 だけど今回の事で御影に付け入る隙を与えてしまった。


 これから、誰が勝つのかまだ分からない。


 しかし、誰かが破滅するまで、終わらないだろう。




 そして、とうとう『舞先生』の派閥が狙われる、・・・・・・の八月がすぐそこまで迫っていた。

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