滑稽で蚊帳の外で子供みたいな女



 一方、玲奈には危機が訪れていた


 暗闇から出てきたのは二人の男。


 一人は輝義、もう一人は仮面の男だ。


 玲奈の体が戦うことに拒否反応を示している。


 勝てない。


 そう言っているかのように。


「ごめんね、かわいこちゃんを殺したくないんだけど、勘弁な」


 輝義が陽気に声をかける。


 それよりももう一人の男から目が離せない。


 離した瞬間、殺されてしまう様な、そんな錯覚に陥る。


「あなた達は」


「ほんとおバカちゃん好きだけど、彼女になるのは勘弁ね。雫ちゃんは死んじゃったよ~、誰かさんが、獣人ちゃん達を守らなかったせいで、間に合いませんでした○」


 馬鹿にするように輝義は笑う。


「そんなはずがありません」


玲奈は強く否定する。まるで子供みたいに理由がない否定、目の前の現実が信じられないとばかりに。


「あ~何も『知らない』んだね~、箱入り娘ちゃんはマジタイプだわ~。あの手紙を送ったの俺なんだわ。マジ滑稽でUKERU。手紙を信じ、すべてを助けようとした御影を否定して挙句、すべてを台無しにした。一体何がしたかったのさ~。教えてく・れ・よ」


「黙れれえぇぇぇ!!」


 何も考えず一直線に輝義に向かう。


 それは下策中の下策。感情に身を任せ、聞きたくないと相手を攻撃する。子供だから許される理論。命のやり取りをしている状況でそれは通用しない。


 玲奈は忘れていた。いや、正確にはうっすらと噂を聞いただけで、直接聞いた訳ではない。


 教会派の暗部のエースに奇術師が存在すると。


「はい、終わりっと。いやー、来てくれて助かったよ。せっかくの仕掛けが無駄になるからね」


 玲奈も十分用心して、距離を詰めたつもりだった。


 しかし、何故、体が動かず地面に這い蹲っているのか理解できない。


 毒ではなく、縛られている感じもない。


「かわいこちゃんには特別大サービス、種をあかしてあげるぜ。これはなぁーんだ」


 輝義が手に持っていたのは、青い色した棘のある花だった。


 玲奈はその花に見覚えがある。


 高レベルダンジョンに生えている花『ブルーノーズ』。その棘に弛緩効果があり、刺さると即効性があり、直ぐに体に力が入らなくなる。


 玲奈なら、棘が飛んできても、槍で受けるか回避する。ブルーノーズは特徴的な花で、棘も青色なので直ぐにわかる。


 実力者に分からせない様、成功させるのが奇術師たる所以だ。


 一人芝居をしているときに、玲奈に棘を掠らせた。


「素直すぎるかわいこちゃんは好きだぜぇ、さて、名残惜しいですが、ひと思いに楽にしてあげるぜ」


 ブルーノーズは消え、輝義の手には『レッドノーズ』、正真正銘の猛毒だ。


 せめて相打ちに・・・・・・動け私の体。


 全神経を集中し、槍を掴む。


「はい、さようなら~」


「伸びろ黒千槍」


 余裕の表情の輝義に、諦めず、必死の形相で、最後の最後まで自分の為じゃなく、他人のために戦う玲奈。


 玲奈は防御じゃなく攻撃を選択した。


 相打ちになるチャンスは今しかなかった。



 そして決着は意外な形で終わりを迎える。






















 時間がない。


 既に玲奈の元に向かう時間は残されていない。


 玲奈の肩に設置した小型魔法映像からも結末まで一分もない、絶体絶命の状況。


 仕方ない。


 御影は夜空を見上げる。


 そんなに見たいなら見せてやる。


「虚空よ、空間を繋げ敵を滅せよ。ゲイボルグ必殺必中の槍


 虚空の闇が空中に広がり、御影は槍を投げた。










 まじかよ・・・・・・そりゃないぜ御影さんよ。


 玲奈の槍を余裕を持ってかわし、決着をつけるはずだった。


 しかし、輝義の左胸、心臓部分が無かった・・・・・・どこからか現れ、閃光より早く突き刺さった槍によって。


 そして、仮面の男の姿はなく、足音が多数。






 はぁ~参ったね、こりゃ、ババを引かされたのを俺ってわけか。

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