倉庫での戦い02


「ばれちゃ仕方ないっすね、いつから気づいてたんっすか」


 今日子はあっさりと認め、仮面を取る。御影を騙すのは無理だと悟ったからだ。


「まずはボブじいさんと対決していた時、次にクラブメンバーを勧誘している時、三下と豪が殴り込みにきたとき、今日子の敵意を感じた。一流ならそれを隠さないと駄目だ。関係ないがどっちがじだ」


 ボブじいさんと対決しているとき、御影は五十メートル後方で誰かの気を察知した。


 その時は、誰だか分からなく、あまり手の内は明かさず警戒しながらことに当たった。


 次に勧誘の時、自然の流れで今日子は魔法科の実習に御影を無理矢理参加させたが、それは予定調和だと御影は感じた。


 事実、御影の時、今日子の視線は真剣なもので、何かを探っていた。


 だから、御影は手を抜いていた。


 最後に三下と豪が殴り込みにきた時、練習場内部に探るような魔力を感知し、御影は豪と対峙しながらそれを遮断した。


 魔力と気は指紋と同じでそれぞれ微妙に違う。


 だから勧誘時、こっそりと御影は、隠蔽していた今日子の魔力と気を探り、ボブじいさんの時感じた気と、探るような魔法をブロックしたときに感じた魔力と一致した。


 ちなみに、時計台の上にいたのは今日子で、御影はここに逃げ込むふりをして誘っていたのだ。


「ほんとにあんな口調の人いると思ってたんっすか。だったら幻想っすよ。あれはリーダーの指示っす。そこまで分かってたんなら仕方ないっすね。話は終わりっす。影さん、リーダーの命令により命いただくっす」


「できるならやってみろ」








 今日子にとって闇は味方だった。


 今日子は・・・・・・出身だ。


 大半は暗闇の中で過ごしていた。


 本来ならこの学園に入れないがリーダーの口添えで、入ることができた。


 その時に学園で入る時の仮の性格や口調を言われ、反抗できるはずもなく今日子は嫌々それを受け入れた。


 本来の今日子の性格はめんどくさがりで気まぐれだが、下の者へは丁寧に教え、学園の生徒に対しては無だった。


 表面上は親しくしていても何の感情も持っていない。リーダーの指示があれば誰だってやれる。


 それは御影も例外ではなかった。


 今日子は暗闇と同化する。


 気配を消し、音もなく御影に接近する。


 狙うは首。


 今日子は御影の首を斬り落とす様に鎌を振るう。


 これが今まで今日子が培ってきた戦闘スタイル。


 闇は今日子の味方だ。闇と同化し、警戒している所をちょんぎる。


 実に簡単なお仕事だ。しかし今日子の予感は的中した。


 おかしいいっす。


 今日子が見えた景色は、御影の首が舞っている光景だが、あんな攻撃で御影を殺せるとは思ってなかった。


 手応えはあったが。


「解!」


 幻影魔法や幻術を解除するための技で、裏の人間には必須の技だ。


 御影が突き出した槍を鎌で受け止め、今日子は返す形で、回転蹴りをくらわそうとするが、鳩尾を狙い蹴った右足を、御影が手で掴む。


 なら。


 今度は、大鎌を地面に突き刺し、反動で左足で御影の顎を狙う。


「甘い」


 サマーソルト気味の今日子の蹴りを首の皮一枚分避ける。


 かかった。


 今日子の靴は仕込み刃が設置してあり、御影の頬に一筋の線を作る。


 勝った。


 湧き出る感情はなく、淡々と事実を確認すし、その後のことについて考える。


 御影は崩れ落ちた。


 刃には即効性の猛毒が塗ってあり、巨人族でも五秒で死に至る代物だ。


 第一目的は御影の殺害。第二目的は雫を豪の所に引き渡すだったすかね。


 今日子は初めて雫を見る。


「面倒な事は考えなくていいっす。素直に私と一緒に来るっす」


 雫は震えながら、それでも扇を構える。


「私は二階堂家の娘です。勝てないと分かっていても最後まで抵抗いたします。御影さんと貴方は親しかったはずです。何も感じないんですか」


 心底どうでもいいといった表情で今日子は突き刺した大鎌を持ち上げる。


「どうでもいいっす。影さんはもう死んだっすから明日には忘れているんじゃないっすか、そんなことより早くいくっすよ」


 近づいてくる今日子に雫は悲壮な決意をする。


 捕らわれるくらいなら。


 自決を。


 しかし、雫の体は動かない。


「ああ、面倒だから動かないようにしたっす」


 悔しそうにする雫に対し、今日子は無表情だ。


「・・・・・・最後に貴方のリーダーと依頼人を教えてください」


「はは・・・・・・言う訳ないじゃないっすか」


「なら俺が聞き出すぜ。縛!」


 いつの間にか復活した御影が今日子の脊髄に手を添える。


 さっきと逆の光景。雫は大鎌を落とし、崩れ落ちる。


「死んだはずっす。どうやって回復したっすか」


 御影の気も魔力も消えていた。死んだはずだった。経験から見ても、今日子はそう判断した。


「あいにく俺に毒は効かない。やられた振りをして、隙を窺っていただけだ」


「まるで裏の人間みたいっすね、何も話さないっすよ」


 体にまるで力が入らない。裏の人間で同じ様な技を使える人間は知っているが、まさか御影が使えるとは知らなかった。


 それは、今日子の慢心であり失態だった。


 もしそうなら、今日子に挽回する術はない。しかし、『これまで』の事から御影はそう非道いことはしないだろうと思っていた・・・・・・この時までは。


「分かっていると思うが、お前の体を支配した。一時間は動けない。それとお前は知らないが・・・・・・敵対する者には容赦はしない。せいぜい悪い夢を見ろメモリーブレイク」




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