三下の決断とHクラス寮での戦い01


 三下はHクラスの寮の前で誰かを待っていた。


 本当にこれでいいのかと自問自答をしながら。




 二日前、大事な話があると言われ、三下は豪に呼び出された。


「へっへっへっ、兄貴、用事って何でさぁ~」


 三下はもみ手で、にやけ面だ。クラブに入ってから初めての呼び出しとあって気分が高揚していた・・・・・・この時までは。


「おう来たか。大した話じゃねぇが頼みたいことがある。明後日の夜十一時、お前んとこの寮の鍵を開けてほしい」


「それはいいっすけど、なにかあるんっすか」


 三下は疑問を口にする。確かに簡単な仕事だが、意図が分からなかった。


「ああ、お前には言ってなかったな。寮にいる二階堂風花の拉致だ。寮には半数の戦力を投入する。なぁに、あらだったことはせん、ただ『預かる』だけだ」


 三下は、期間は空いたが長年豪の下についていたため、性格は知っている。


 気に入らない奴、強い奴には片っ端から喧嘩をうっていたが、少なくても女子供を拉致しようとする人ではなかった。


「兄貴ぃ~、良いんですか・・・・・・相手はか弱い女っすよ~」


 無理だと分かっていても、三下は確認する。


「あっ、お前は余計なことを考えなくていい、全てが成功すれば、お前を幹部にしてやる」


「ありがとうございます兄貴ぃ~」


 顔を喜んでいる表情だが、心は釈然としないまま、誰にも相談できずこの時を迎えた。


 四十名ほどの人間がこの寮へと向かってきた。


 もはや迷っている暇はなかった。


 三下には二つの道が見える。


 一つはこのままクラブの面々を通して、幹部になる道。


 二つは拒否して、自分の命を危険に晒す道。


 昔の三下なら選択にもならない。


 われながらばかげた選択肢だ。


 クラブの面々と対面し、三下は土下座する。


「何の真似だ」


 この場を任されている副部長が冷めた目で三下を見ている。


「お願いでさぁ~風花を連れて行くのだけは勘弁してくだせぇー」


 クラブの面々はおのおの武器を待ち、すでに臨戦態勢だ。


 やっぱり・・・・・・と三下は思う。


 狙いは風花だけでなく、御影のクラブの面々、プゥと種次も捕まえる気だと。


 信じたくなかった。昨日集会で盛り上がっているときにこっそり見つけた計画書を見たとき、書いてあった。


 ○場所:一年Hクラス


 時間:午後十一時


 作戦:三下が寮の鍵を開け浸入、五分以内に二階堂風花、プゥ、目垣種次を拉致しクラブハウスまで移動。到着後連絡し本隊の任務が終わってない場合は、脅しの材料に使い二階堂雫と御影友道の投降を促す。


 この場合ある程度拷問してもかまわない。


 協力者:○○○○


 協力者の所は黒く塗りつぶしてあったが、三下は利用されているだけだと感じた。


 昔はこんなんじゃなかった。いつから兄貴は変わっちまったんだろうか。


「最後の警告だ。そこをどけ」


 三下は涙を流しながら首を振る。


「どきやせん。あいつ等は俺のダチなんだ。ダチは売れないっす」


 土壇場で勝ったのは、0クラスの面々と過ごした日々だった。


 飽き性で疲れるとすぐさぼるしふける。そんな俺を見捨てないでくれた。


 いつでも優しく皆の世話してくれた風花。


 言葉は喋れないけど元気いっぱいのムードメーカープゥ。


 理知的だがどこか抜けている参謀的存在種次。


 そして俺達を腐った0クラスから引っ張り上げてくれた御影。


 へっへっへっごめんな、皆ぁ~、俺っちの命一つで勘弁してくれぇ~。


「馬鹿が、殺れ」


 大勢が走り出す音が聞こえる。


 抵抗する気はない。この場で三下は最弱だし、豪へのせめてもの思いで、攻撃する気はもともとなかった。ちっぽけなプライドかもしれないが、自分の最後にふさわしいと思えた。


 三下は目をぎゅっと瞑る。


 いつまでたっても攻撃がこない。


 おそるおそる目を開けると、感電して失神している姿があった。


「よく言ったぞ三下。さて貴様等にはお仕置きの時間だぞ」


 目の前でばちばちと音が鳴っている警棒を片手に持ち、口には煙草をくわえ、喜劇をみているような表情で『夜露死苦』のメンバーを見下ろす舞先生の姿があった。


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