クラス替え試験~風花対ヴァルチャー~
「も、ふ、み(もぉ~風花ちゃんの試合始まっちゃうのに、御影さん遅いよぉ~)」
「全くなのだよ。自分の試合が終わって用事があるといって行ったきりだからな。せっかくの風花の昇格試験だというのに」
ぷんぷんと怒っているプゥに、神経質そうに眼鏡のずれを直す種次。
「御影さんはきっと信頼しているんだと思います。見なくても結果は分かっていると。きっと御影さんを必要としている人の所に行ったんだと思います」
風花は落ち着いた様子で自分の手を見つめる。
バンテージを巻いてあり、所々に血の後があった。
あれから、風花の日常は一変した。
クラブの練習に参加して、いかに自分が甘えていたのか分かった。
外で見るのと中でみるのとでは全然違う。
一日目。気絶した数は数えきれず、足と手の皮はずるむけで、そのたび、激痛で失神して、激痛で覚醒して、自分で回復した。
一週間が経過し、皮が厚くなり気絶する回数が減ってきた。そして重力付加付きサポーターを付け、その二日後個別訓練に入った。
それは常軌を逸した訓練内容だった。
癒魔法がないと、五体満足ではいられないほどに。
骨は裂け、体で覚えさせられた。素振りは日に一万回、少しでも間違った動きをすると最初からやり直し。披露骨折はゆうに及ばず筋肉が断裂し、またやり直し。
でも私は絶対に諦めなかった。
二週間目にしてそれにも慣れいくつかの型と模擬戦に参加した。
まだ実力がないから、全員に負けてしまう。
カティナさん、プゥちゃん種次さんは本当に強く手も足もでない。水流さんとシンリィちゃんには攻撃は当たるけど後一歩のところで負けてしまう。
それがたまらなく悔しい・・・・・・と同時にそんな心境の変化を嬉しく思う。
そして今ここにいる。
御影さん、プゥちゃん、種次さん、後三下さんはすでに昇格を決めている。
前の試合が終わり。
「じゃあ行ってくるね」
穏やかで、それでいて凜とした表情で風花は舞台に上がった。
相手はハンマーを持った巨漢で、下劣な表情でにやにやと風花を見ている。
きっとお姉ちゃんの差し金だ。
風花はそう確信する。
昔の私は、人見知りでこういう怖い人の前では、びくびくして脅えていた。今目の前にいる人物も、そういうことを期待して雇われたんだろう。
姉の雫のせいにして、都合のいい口実にして、自分の弱さを否定して。
そうやって今まで生きていた。
この学園に来て、家族がそばにいなくなって少しづつ考え方が変わった。
それじゃあいつまでたっても強くはなれないと気づいたから。
見ててねお姉ちゃん。
前は感じなかった雫の気配を感じる。
そうやって、いつも雫は学園でも見守っていたのだ。危険な時は駆けつけられる様に。
「それではHクラス昇格試験第九試合Gクラスヴァルチャー、Hクラス二階堂風花の試合を始める。両者準備はいいか」
「ぎゃははは、やめるなら今のうちだぜぇ、大人しくままの〇っぱい飲みに家に帰れ」
「大丈夫です」
昔ならヴァルチャーの威圧にビビって動けなかったが、今は涼しい顔で受け流す。
「では、第九試合始め」
「さっさとぶっ潰す。悪く思うなよ嬢ちゃん」
威圧が聞いてないと思ったのか、普通の口調に戻り、ヴァルチャーは早々に終わらせようと走り、不用意に近づき、ハンマーを振り下ろす。
風花は構えのまま、自分の領域に近づくのを待った。
今!
それは居合い抜きと呼ばれる抜刀術。鞘から高速で刀を振り抜く技。
風花が、今覚えている技はこれだけだ。
一発で決めないと見極められる。
しかし不思議と震えはなかった。
ハンマーが近づいてくるのがゆっくりと見える。
遅い。
カティナの荒々しい技より、プゥの体術より美夜の双剣術より、種次のあらゆる手段より、シンリィと水流の魔法よりも。
「ぐぉ」
ヴァルチャーのハンマーが当たる寸前でぴくりと止まり、崩れ落ちた。
まだ、つたない領域だけど、今は胸を張っていえる。
「勝ちました」
その言葉をかみしめる様に、自然と涙が流れ落ちる。
風花の表情は、何か解放されたかのように、晴れやかで、見ほれるほど美しい笑顔だった。
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