雫の呼び出しと風花の決断

 お姉ちゃん、急に呼び出しなんて一体なんだろう。


 夕飯を食べ終わった後、雫から急に連絡が入り、風花は寮を出て、待ち合わせ場所の公園エリアに向かった。


 最近は充実していると風花は思う。


 御影さんののクラブに半ば強制的に入り、やってることはめちゃくちゃだが、皆が皆精一杯やって、はらはらや呆れたり怒ったりする事も多々あるけど。楽しくて、やっとできた私の居場所。お姉ちゃんが用意したレールではなく、私だけの道。


 最近は御影さんに教えてもらった癒魔法も上達して、骨折ぐらいの怪我なら治せるようになった。


 プゥちゃんも種次君も御影さんも、あっという間に次のクラスに行くだろう。


 それが少し風花には悲しい。


 最初はマネージャーでいいと思っていた。


 でも私も皆と一緒に。


 そんな事を考えていると、待ち合わせ場所の公園に着いた。


 いつもの池の前までつくと。


「あれっ、お姉ちゃんと御影さん」


 対峙するように御影と雫は立っていた。


 御影もダンジョンをクリアした後、雫に紙片を渡され、先ほどこの場についた。


「あらあら、風ちゃんも来たことだしもう一度言いますわね。御影さん、あなたのクラブは危険です。とても風ちゃんを任せるせることはできません」

「なに言ってるの・・・・・・お姉ちゃん」


 唇がわなわなと震え、信じられないような目で雫を見る。


「風ちゃん、御影さんのクラブは危険なんですよ。これから先、御影さん目的で拉致されるかもしれません。か弱い風ちゃんがそんな所にいるとお姉ちゃん心配です。いい子だからお姉ちゃんのクラブに行きましょう」


 まただ。


 風花は前進が金縛りにあったかのように動けない。


 勝手に決めないで、私のことは私で決める。


 心の中で思っていても、口に出ない。


「風花は、内の大事な仲間だ。たとえ姉だとしても、本人が拒否してるようだし渡さない」


「あらあら、困りましたね」


 少しも困ってない表情で、雫は顎に手を添える。


 当然閃いたかのように。


「ではこうしましょう。今度のHクラスの昇格試験で風ちゃんが勝ったら、御影さんのクラブにいてもいいですよ。お姉ちゃん、心配だけど諦めます」


 しゅんとした顔になる雫。突然のことでついていけない風花。そして黙って続きを促す御影。


「それだけじゃ賭が成立しませんから風ちゃんが負けちゃったら、御影さんがクラブを解散して風ちゃんと一緒に内のクラブに来ると言うことでいかがでしょうか」


 本音はそこか。


 御影は思う。確かに風花の事を心配しているのは本当だろう。


 そこに疑いの余地はない。


 しかし、雫は・・・・・・の人間だ。大方上から言われたのだろう。


 ついでに二重取りしようと言う雫の魂胆だ。


 面白い。


「いいだろう。その賭受けよう。但し今日から本番まで風花と会うな。それと、試験が終わるまで一切口出しするなよ」


「あらあら、交渉成立ですね。風ちゃん、御影さん、ご機嫌よう。次会うときはお仲間です」


 スカートを摘み優雅に一礼して、雫はその場を去った。





「・・・・・・どうしてですか」


 長い静寂の後、風花はぽつりと呟いた。


 言いたいことはたくさんある。口をついて出た言葉はそれだった。


「俺は見ていたからな」


 そういって御影は、風花の手のひらを優しく触る。


「すまんな、ほんとは知っていた。風花がマネージャーだけでなく練習に練習に参加したいって事も。朝、手に大きな剣だこができるくらい一心不乱に刀を降っていた事も。新規の勧誘を優先して、来週言おうと思っていた。ほんとにすまない、早く言うべきだった。風花、お前には才能がある」


「ふざけたこと言わないでください! 才能がある。そんな事言われたこともないです。落ちこぼれ、三姉妹唯一の汚点、恥さらし、さんざん陰で言われてきました。自分で精一杯やっても、実力つかなくて、でも諦めたくても諦めきれなくて。才能って何ですか、そんなものがあるなら見せてよ・・・・・・」


 御影の手を振り払い髪を振り乱しながら泣き叫ぶ。ありったけの吐き出したい思いを。


 それを黙って受け止める御影。


 いつまでたっても変わってないな俺は。人の心の機敏に疎くて、優先順位を合理的に損得勘定で判断して、誰かを傷つけてしまう。


 来週昇格試験に向けて本当に誘うつもりだった。


 Hクラスの昇格試験は、人気がないため挙手制で、多かったらその日対戦して決める。そこらへんは上位~中位クラスと違いざっくばらんだ。


 今日子の資料から十分昇格試験を合格できると思っていたし、御影は風花の事をすごい才能の持ち主だと思っていた。


 何を思って雫はそうしたのか分からないが、抑圧されてそれを発揮できていない。


「刀にはな、領域が存在するんだ」


 虚空庫から刀を取り出す。御影はこういう時、不器用だから、泣いてる者に言葉で示すことはできない。だから行動で示す。


「俺はできないが風花ならできる」


 ふっと肩の力を抜き、一閃。


「綺麗」


 目の前で見ていた風花は思う。


 見惚れるほど、綺麗な太刀筋だ。


「風花が目指す領域はもっと上だ。知ってると思うが俺の訓練はきついぞ」


「できるかな、私に」


「ああ、俺が保証する。狭い領域で閉じこめられていた小鳥が羽ばたくときだ」


 そう言って、御影は風花に刀を渡す。


「さっきの光景を思い浮かべやって見ろ、風花の新しい姿を」


 風花は大丈夫かなと御影の方を見る。御影は大丈夫だと頷く。


 お姉ちゃん。


 目を閉じ、思い浮かべる。


 ありがとうお姉ちゃん、私を今まで守ってくれて。でも私は私の道を行きます。今日この日から私は一人立ちします。


 目を見開き風花は決別の一振りをふるう。呪縛を断ち切るように


 これが風花にとっての大きなターニングポイント。小さくか弱い少女が強者を目指す瞬間だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る