模擬戦~シンリィ&水流対種次~
全くもって無駄なのだよ。
種次は心からそう思っていた。他の人なら、僅かながら傷を負わせることはできたであろう。初対決だし、相手の手の内も分からない。せいぜい魔法を警戒し『奇跡の一日』の噂もかみし戦略を立てていくだろう。最もそれは負傷だけで、最終的には負けるものはいないだろうと種次は予測する・・・・・・マネージャーの風花を指名したらさすがに止めたし、おそらくみんなも止めただろう。
しかし僕には無駄なのだよ。
よりによって、水流とシンリィは、見た目で判断し一番指名してはいけない相手を指名したのだ。
種次は、不得意、得意、戦闘パターン、思考等々、『奇跡の一日』の人物について、御影以外全て知っている。
ここ一ヶ月体力と手札を増やした種次にとって、今の二人はものの数にもならない。
「宣言する。三十秒後、二人は地に伏し、チックメイトなのだよ」
眼鏡をくいっとあげ、種次は決め顔をつくるが誰も聞いておらず、返ってきたのはシンリィの魔法だった。
「無駄なのだよ」
これも種次の予測の範囲内。
指を鳴らすと、二十個近くあったボール系魔法がどこかに消えた。
「さっきのは挨拶代わりじゃ。水よ対象をあげろ「ウォータークラッシュ」」
ウォータークラッシュは遠隔操作型魔法で、離れたところに魔法陣を出現させ、陣の大きさの分だけ水が勢いよくふきだし、勢いと水が噴き出す距離と大きさは術者の魔力次第だ。
この魔法は繊細さと操作性の難しさから水魔法の五級に認定されている。
種次がいたところが突如濁流のように水が吹き出し。
「うぉ」
種次は空にとばされる。
「今じゃ」
シンリィは作戦が成功し、勝利を確信したかのように上機嫌で、水流に向かって叫ぶ。
「灰になれ、アッシュ・フレア・ボルク」
「その魔法は!このたわけなのじゃ。眼鏡を殺す気か」
シンリィは非殺傷系の魔法を選択して放ったのに対し、水流が放ったのは、対象が死んでもおかしくない魔法。
炎系殲滅四級魔法アッシュ・フレア・ボルク。
水流の手からピンポン球ぐらい灰炎色の球が発射され当たれば、文字通り周囲二メートルほど灰になる。
殲滅魔法自体は五級からだが、水流の魔法には必中が付与されているため四級になっている。
強いモンスターと戦うときの水流の必殺魔法だ。
水流は勝つこと以外考えておらず、シンリィの考えは甘すぎると冷ややかだ。
何かあれば舞先生が止めてくれるだろうと思っていたが、種次が灰のように燃えた。
舞先生が間に合わなかった。いや違う。
水流は強い違和感を覚える。それはシンリィも同様だ。
舞先生の不適な笑み、カティナと美夜は興味がなくなったのか話し合いをしていて、プゥは何か言いたげな様子で眉を寄せ、風花は終わりだといわんばかりに、いつでも動ける体制だった。
それを視界にとらえ、体に力が抜け、地面に倒れる。
「ジャスト三十秒なのだよ。そして僕の勝ちだ」
宣言通りあっという間に種次勝った。
そして、二人が何故負けたのか分からないまま。
風花の治療で回復した二人は。
「今のは無効なのじゃ、もう一回なのじゃ」
「もう一回」
すぐさま舞先生のところに向かい再戦を要求する。
「何故負けたのか分からないだろ。そんな状態では何十回何百回戦ったところで勝てないぞ。まず、シンリィからだが、何故本気を出さなかった?」
「それは当たり前じゃ、これは模擬戦じゃ、相手を殺すかもしれない魔法は控えるべきだと思ったのじゃ」
舞先生は水流に視線で問う。
「甘い、反吐がでる。私は殺す気でやった」
「その通りだぞ。さっきの試合を見てなかったのか、見ててそう思ったのはたいそうなアマちゃんかお人好しだな。その程度の覚悟だと、初日で心がおれるぞ。貴様等はここでは最下位、とるに足らない存在だ。まずそこは自覚しろ。貴様等の攻撃など遊戯に等しい。プゥも眼鏡も一ヶ月前は貴様等より下だった。そして這い上がってきた。最も御影の特訓は甘くはないぞ」
「何時から先生は、そんなに熱血になったんですか?」
「心外だぞ御影。私は何時だって生徒の事を思っているぞ」
いつの間にか戻ってきた御影の軽口に舞先生は心外だといわんばかりに、ややオーバーリアクションで茶目っ気に返す。
「みんなは引き続き模擬戦をやっててくれ。水流、シンリィ、二人は特訓だ・・・・・・お望み通りな」
そのときの御影の顔はそれはもう良い笑顔だった・・・・・・二人以外は引くほどに。
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