模擬戦~カティナ対美夜02~
成長は順調だと、いやそれ以上かもしれないと御影は目を細め、カティナと美夜の模擬戦を見て思う。
成長する過程の一つとして、ライバルを作ることにある。
ライバルを作れば、それに勝ちたいと意欲を燃やし、お互いが切磋琢磨しあい向上に繋がる。
御影や舞先生では、教えることはできても、そういう役にはなれない。だから御影は二人一組として、ユズリアと美夜を互いのライバルとして誘ったり、ぷぅと目垣を誘ったりした。
三下は数合わせの面はあるが、カティナがいい具合に美夜のライバルにはまってくれた。
だが、もうそろそろ違う方面の人間も入れないとと御影は思う。
ローテーションで模擬戦を回しているが、いろんな人間と模擬戦をして幅を広げてほしいと思っている。
特に魔法使いとの対戦が不足していた。
だから、魔法科の人間が必要だし、可能なら鍛冶科や解除科の人間も必要だと考えている。
新規グラブの最低人数は部員五人に顧問一人にマネージャー一人の計七人だ。
新規クラブは、部員だけで最大三十人登録可能で、御影達は六人なのでまだまだ空きがある。
しかし、有能な人間はすでに違うクラブに入っている可能性が高く、だめもとで、明日、奇跡の一日の人達をまわろうと考え、思考をやめる。
「どうかしたのか風花」
風花から強い視線を感じ、いったん余所におき、風花に視線を合わせる。
風花は、口をもぞもぞ動かし、引く結び、噛みしめ、一生懸命何かを伝えたいが、言葉にできない、そういういった表情だ。
「あ、の」
亀の様にゆっくりとその言葉だけ言えたが、それまでだった。
「無理に言う必要はない。今はまだな・・・・・・それにそろそろ模擬戦も終わる」
きっかけがないと呪縛は解き放たれない。だから、御影は言葉にしようと頑張っていた風花にまったをかけた。
風花の呪縛は長い年月を掛け根深い。無理に押し進めれば悪影響だと御影は思っている。
だが、そのきっかけはもうすぐだと、御影の勘が告げていた。
だからそのときまで待ってくれ、時がきたら必ず助けると、御影は心の中で言い、模擬戦に視線を移した。
やっぱり強い、悔しいけど。
美夜は一定の距離まで近づくが、そこから先は一発もらうのを覚悟しなければ進めないと感じていた。
カティナの表情を見るとまだまだ余裕そうで、自分の方が先にばてると思い、切り札をきるタイミングを見ていた。
無属性敏捷系向上魔法『テーア』。入学試験の時に藻使った魔法で、敏捷が向上する。重ねがけする事により、威力は増し、その分、体に負担がかかり、前までは二回が限度で、四回で体の何処か壊れていた。一ヶ月たった今、五回の重ね掛けに成功し、御影と秘密の特訓で、新しい魔法も修得した。
形になったのは二日前でまだまだ改良の余地があるが、皆に見せるのは初めてだ。
勝負はカティナの攻撃の終わり後の僅かなタイムラグ。
今!
「テーア×5、朧の月」
朧の様に、美夜の体がユラリと消え、存在そのものが無くなったかのように、一面静寂に包まれた。
これにはカティナも驚きを隠せなかった。何かを狙っていたという分かっていた。来るタイミングも誘導して、叩き潰してやろうと思っていた。
三十六発目は少し手を抜き、美夜が仕掛けてきてもすぐに対応できるようにしていた。
しかし、霞の様にふっと消え、音もしない。
冷たい汗が額から流れ、カティナは直感を信じて行動する。
「キリングバーサーカー」
狂乱系魔法キリングバーサーカー。戦闘系能力が大幅に向上する変わりに徐々に理性を無くす魔法。
前まで、この魔法を使えば、一秒とかからずに理性を無くしていたが、今は二分ほど理性を保ったまま動くことができた。
気を使えるようになって、さらに動きや攻撃力に磨きがかかり、この状態だと、今までの美夜のスピードに十二分に対応できた。
そして、美夜が何処にいるか分かり、すぐさま行動に移す。
そうしないと間に合わないからだ。
美夜は直ぐ後ろにいた。
「蛮罪」
「剣舞十連」
どちらとも無事ではすまない。蛮罪はカティナの試作段階の技で、下から切り上げる技で、今練習中の攻撃特化型の赤気、『紅蓮の気』を練り上げ剣にまとい、先のキリングバーサーカーの効果とあわせ、罪に焼かれる断罪者のように、ぶったぎやかれ、半径2メートルはその威力に巻き添えくらう危険な技。
対する美夜は、回転しながら一瞬で十の突き振り下ろし振り上げ、横に斜めに振る等アトランダムに攻撃する技で、一ヶ月前は四連しかできなかったが、今では八連に進化し、十連に挑戦するのは今回が初めてだった。
互いに負けたくないがために、危険な賭にでた。
「そこまでだ。全く、毎度のことながら、やりすぎだ。俺が止めなければ、二人とも死んでいたぜ」
いつの間にか、御影が止めに入り、美夜の双剣を蹴り上げ、カティナの剣を、防御特化型の青気、『清浄の気』を槍に纏わせ片手一本で軽く受け止めた。
これは最近二人が模擬戦をする時のいつもの光景で、歯止め効かなくなり、最終的にくらったら、即死レベルの攻撃で終わるので、舞先生か、御影が割って入って強制終了させている。
「止めにはいるって信じてた」
「師匠がいるから全力でできるんっすよ」
そう調子の言い事をいいながら、二人の視線はある一点をみていて。仕方ないなと御影は溜息をこぼす。
「「眼鏡」」
ここ最近二人の試合の審判役になることが多く、勝ちがどちらかを理解できる種次を睨みながら二人は言う。
「ふむ、今の勝負御影が止めに入らなかったら、勝利していたのは、美夜の方なのだよ。0・1秒の差で、美夜の方が先にカティナの首を斬っていたのだよ」
「あぁぁ!畜生、やっぱり間に合わなかったのかよ、もう一回やるよ」
「ふっ、負け犬の遠吠え見苦しい」
「一回勝ったからって調子に乗るなよ。今度こそぶっ殺す」
「上等」
顔をつきあわせにらみ合う美夜とカティナ。
「残念ながら次の機会だ。次はプゥと目垣の番だ」
「今日は負けないのだよ」
「わき(私が今日も勝つよー)」
「カティナさんも美夜さんもこっちにきてください。今から治療します」
「ほう、すると最後の試合は私と御影か。楽しみだぞ」
「いや、舞先生は顧問ですよね。毎度毎度模擬戦をやるのは・・・・・・」
「御影、私は指導のつもりでやるのだぞ。決して本気の模擬戦をやるつもりはないぞ」
「その言葉が本当ならどれだげいいんですけどね。前みたいに、半壊は勘弁してくださいよ。治すのが大変なんですから」
「ほう、私だけが悪者みたいだな。嘘はいけないぞ。熱くなって、壁をぶっこわしていたのはどこのどいつだったかな」
「・・・・・・お手柔らかにお願いします」
「善処するぞ」
これは、いつもの日常の一コマ。
次くる事件前のほんの僅かな安らぎ?の一時だった。
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