第二章幕間03~五大派閥会議~


 桜花学園最上階。そこは選ばれたもの以外は入れない、中枢にして、学園の象徴。ここに入れるだけで、国でも一定の権力が与えられ、学園内では絶大な権限がある。


 その最上階の一室、クラス替え試験最終日の夜、臨時の会議で、一目でわかるほど高価な五十人ほどが座れる、円形の会議テーブルとゆったりとした椅子に五代派閥のトップが座っており、後ろにはそれぞれの護衛と参謀等が各二~三人立っている。そして、本来なら入れないが、今回会議の主犯であるため特別に連れてこられた人物が一人。そう、藤島玲奈だ。


 玲奈は緊張のあまり息をしているかどうかさえ分からないほどで、立っているのもやっとの状態だ。

会議が開始されたのは、それから十分ほど後の事、始まりは怜奈が所属する学園長派からだった。


「この度は、うちの怜奈がお騒がせしてしまい、みなさまの手を煩わせてしまいまして、誠に申し訳ありませんでした」


「怜奈の指導不足は私の責任です。この様な事がないよう指導を徹底致しますので、どうか穏便にお願いいたします」


 学園長と生徒会長が頭を下げ、怜奈も深々と頭を下げる。


 怜奈に発言権はないし許されていない。できることといえば、謝ることと、黙って成り行きを見守ることだけだ。


「いえ、罰を与えるなどとんでもない。怜奈様は素晴らしい事をしたと思います。0クラスの救済、いいではありませんか、きっとダンジョン神様もお喜びになっているでしょう・・・・・・0クラスにいた人間はいなくなってしまいましたが」


 小馬鹿にされ、怜奈は悔しさのあまり拳を握りしめ唇を噛みしめたいが、それをやればますます派閥の立場が悪くなるので、ぐっと我慢する。


「新聞クラブ『暁』の記事は俺らクラブ派が握り潰した。しかし、見ていた一般客や生徒まで口止めは不可能だ。実際今回の一件はかなり噂になっている。国と学園では学園長派の権力低下はまぬがれんな。クラブ派から何か罰を与えることはない」


 案に、すでに派閥が罰をうけているという物言いに、怜奈は暗くなる。自分がやったことの重大さと、派閥にどれだけ迷惑をかけたのかを。


 特に生徒会長と学園長への恩義は計り知れない。


 これだけ迷惑をかけた怜奈を見捨てる事なく守るため、ふんそうしてくれたのだ。


「藤島家には僕達も大変お世話になっていますので、今回の件は既に貴族派の人間には口止めをしています。直、凡人共にも伝わって噂など消えてなくなるでしょう。家に帰る際は是非貴族派の貢献のことを父君に伝えてくれると幸いです」


 表面上はにこやかに発言するこの男に、玲奈は反吐がでる思いだった。この男達は裏で何をやっているのか、玲奈はよく知っている。だから、玲奈は貴族派の誘いをけり、学園長派に入ったのだ。だが、結局自分は・・・・・・としかみられてないことに陰鬱になる。


 それを振り払うかの如く、他の目線と同じ様に、ある一点、まだ発言していない派閥に移る。


 結局、三派閥は傍観者でしかない。仕掛けたものと仕掛けられたもの。今回の件の勝者と敗者、審判を下すのは勝った方なのだから。


「今回の件、内のクラブの者が大変世話になったようだな。あの場ではああいう他なかった。それは分かっているな」


 あの発言とは、御影の宣誓布告だ。理由や心情はどうあれ、玲奈は頷くほかに選択肢はない。


「藤島玲奈の、あの発言は、弱者にとって毒でしかならない。可哀想に、皆怯えていたぞ」


 どの口が言うかと玲奈は心の中で恨み節を放つ。カティナから今回のあらましを聞き、はめられたことへの憤りで、すぐさま御影の元へ向かおうとしたが、それはカティナ達に止められた。


 ここでぶちまけられたらどれだけいいか玲奈は思う。


 しかし学園長や生徒会長に呼び出された時、洗いざらい喋ったが、結果は変わらず沈黙しろとのことだ。


 そのとき言われたことが耳の奥に残っている。


『自制できなかった方が悪い。派閥の上位者としての自覚が足りない』・・・・・・と。


 今回の件はそう言うことだ。今までの様にみてみぬふりさえしていれば、こういう事にはならなかったのだ。全ては玲奈の上に立つ者の自覚の足りなさ甘さ故の出来事だ。


 後悔しても遅い。舞先生の次の言葉を待った。


「そうだな、藤島玲奈の2ヶ月の謹慎と学園長派の占有情報の一部開示とかかった迷惑の慰謝料、ダンジョンの二個ほど占有解除といったところだな」


 玲奈は思わず絶句する。あり得ないほどの要求であるからだ。


 慰謝料は分かる。どのくらいになるか分からないが、そのぐらいは覚悟していた。


 謹慎も痛いが、二週間ほどは覚悟しており、必ずそれ以上の謹慎を要求されるから、交渉で何とかするといわれていた。


 問題は占有情報とダンジョンの占有解除だ。


 五代派閥や各国、有数の学園は各自、固有の情報と占有ダンジョンを持っており、派閥の資金源となっていて、その派閥の核だ。


 代償の要求として余りにもでかすぎる。


「それはいささかすぎると思いますよ。あなた方も随分派手に動いたようですが」


「さぁ、私には何のことか分からないが」


「うちの下部の幹部が殺されたが」


「それは可哀想に、冥福をお祈りする。しかしダンジョンで死んだと聞いたが」


「こないだ、ゼロクラス付近ででかい花火を見ました。太陽の様に真っ赤でした」


「それはよかった。それは、さぞ熱く綺麗な花火だっただろう」


「生徒会から来た報告では、0クラスが使っていた小屋は消失、中にいた『人物』は消え、御影さんが近くにいたと聞いていますが」


「御影からは襲われたから撃退したと聞いているが。相手も強かったので、加減ができなかったともな。そもそも良かったんじゃないか、あそこは不当に建てた小屋だ。その小屋もろとも消失したんだ、喜ばれこそすれ非難される筋合いはないと思うが」


 ほかの派閥の追求をのらりくらりとかわす舞先生。


 この空気に耐えきれなかったのは、貴族派だった。


「馬鹿にしているのか貴様は、御影を差し出せ、そうしたら、俺達三派閥は策にのろう」


 学園長派と舞先生派以外の三派閥のそもそもの目的は御影の引き抜きにあった。


 それぞれの派閥が、御影の有用性を理解している。学園長派も今回の騒動がなければ、水面下で引き抜きに動き出していた。


 案に、御影を差し出せばこの場で味方になるし、渡さなければ敵になると。


 皮肉にも玲奈の処遇は、相手陣営に委ねられた。


 突然、さぞおかしそうに舞先生は笑う。喜劇でも見たかの様に。


「はぁ、なかなか笑える冗談だぞ。あれは私のものだ。クラブはどうでもいいが、あれに危害を加えるのなら、いくらでも相手になるぞ」


 何回もダンジョンレベル八十以上をクリアした舞先生の濃密で重厚な殺気を浴び、怜奈は気を失いかけ倒れそうになるが、隣にいた生徒会長に支えられ醜態をさらさずにすんだ。最も、生徒会長も体の震えを押さえられなかったようで、玲奈は体が揺れているのに気づく。


 他の派閥のトップは平然としていたが、後ろにたっている連中は、さすがに気を失うことはなかったが、生徒会長と同じ様な反応だ。


「まぁまぁ落ち着いてください。貴族派はあんな事を言いましたが、今回私達は『中立』ですので、お二人方でお決めになってください。それではダンジョン神様のお加護があらんことを」


「っち、俺らも帰るぞ。これで終わりと思うなよ」


「今回は見逃そう。だが、次回も我らに危害を与えるのなら黙ってはいない。それだけは忘れるな」


 三派閥とその付き添いが部屋から出て、残ったのは、舞先生の派閥と学園長と生徒会長と怜奈だけになった。


「さぁ始めようか」


 ここからが本題と言わんばかりの舞先生と、少し疲れが見え始めた学園長。


 それから話し合いは深夜にまで及び、玲奈の処分は停学二週間。その間のダンジョンへの出入りは許され、そこだけは概ね予想通りより軽い内容となった。


 しかし一部の情報と五千万円の慰謝料を舞先生に渡すことをを盛り込んだ内容で魔法契約書がかわされ、結果的に今回の一覧の事件は、舞先生の派閥に軍配が上がった。


 すべてが終わり、憔悴しきった学園長と今にも倒れそうな生徒会長と別れ、怜奈は思う。


 御影とは一体どんな人物なのだろうかと。


 一回目はカティナから聞いてようやく思い出したぐらい自分にとって無関心だった。


 二回目は自分とは相容れない存在だと感じた。


 しかし、あの癒杉舞教諭にあそこまでいわしめ、他の派閥も、戦闘科一年主席である自分よりも関心をもっていた。何よりカティナがあれだけ慕っていた。


 分からなかった。御影という人物を。だから、一度・・・・・・しようと玲奈は思う。


 歯車は次のステージへと移行する。様々は思惑が渦巻き、暗躍の七月はもう目と鼻の先だった。

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