打ち上げ


 午後の部のHクラスの昇格試験が終わり、学生が多く店を出している、商店街の一角。


 数ある飲食店から威勢のいい声が聞こえる中、とある居酒屋に御影のクラブ『フォレストヒューマン』の面々は集まっていた。


 クラブの0クラス組が全員Hクラスに昇格したので、そのお祝いだ。


 俺と舞先生はお酒を飲み、未成年組はジュースでの乾杯だ。


「今日はお疲れさん。まぁいろいろあぶなっかしい所があったが、無事全員Hクラスに昇格して良かった。まぁみんないろいろ反省点や思うことはあると思うが今日は楽しもうぜ。それじゃあ乾杯!」


 御影の音頭で、乾杯!と皆が口々に言いグラスを当てる。


 ここにいるのは、御影、舞先生、カティナ、美夜、プゥ、目垣、三下の計七人で風花はHクラスで用事があるらしくこれないとのこと。


 話題は今回の試験のことだ。


「へっへっへっ、旦那も見ててくれましたぁ~、おれっちの勇姿ぉー。やっぱおれっちが先陣をきったからみんな勝ったんだぜぇ~、眼鏡はビビっちまってたしよぉー」


「それについては弁解の余地もないのだよ。最初の選手の順番に意義を申していたのだが、御影言うとおりだったのだよ・・・・・・それにしても三下のヅラには驚いたよ」


「い、ほ(言っちゃ駄目だよぉー。本人も気にしてるんだから)」


「うんうん、人には言いたくないことの一つや二つあるんだから、気にすんなよ」


「髪型は人それぞれ、感性も人それぞれだから」


 そうフォローしながら、プゥとカティナと美夜は耐えきれず笑っていた。


「ちくしょぉー、こうなりゃとことん食ってやるぜぇー」


 今日の会計は、クラブの共有資金からでているため、三下は安心して、やけ食いを始めた。


「でさ、眼鏡もやるじゃん。このシナリオを考えたんでしょ」


「僕は目垣だ。僕らみたいな新興の弱小クラブはいくら舞先生が顧問をしてくれていたとしても、潰されるのが落ちなのだよ、いくら御影が強くてもだよ。この学校は民主主義という名の、多数が勝つ所。何かと理由をつけて潰されるのが落ちなのだよ。そこで僕は布石を打った」


 得意げに目垣は眼鏡のブリッジを指で押す。


「まず、今日子に噂を流してもらいクラブや派閥の関係者に来てもらい、僕達の力を、特に御影の力を見てもらい驚異に思ってもらう。これがまず第一段階なのだよ。そしてカティナに協力してもらい、一年主席藤島玲奈を引っ張ってきてもらい、彼女の性格と僕の理解から、御影がHクラスの人間を痛めつければ、必ず揉めることになるのだよ。やりすぎだとは思ったのだがそこまでが第二段階。そして、宣誓布告と、敵になったらやばい連中だと思わせることが第三の目的なのだよ」


 そう、全ては計算されたシナリオだった。観客が満員になるほど多かった事は、今日子にインタビューを受けた報酬としてカティナの机に手紙を入れる事と、『何か』あったら二つ協力する事で、今回その一つを使い、顔はモザイクがかかっているがダンジョンの攻略動画とクラブの模擬戦の動画の情報を有力者に流し、それが御影だという噂をばらまいた。もっとも大部手を抜いており、あまり手の内はこの動画には入っていない。


 タイミングを見計らって、藤島玲奈と一緒に屋台を回っていたカティナに連絡し、闘技場にくるよう誘導した。


 美夜は、闘技場内で誰かが仕掛けないか監視していた。


 そして、思惑通りに事が進む。


 そう、全ては仕組まれたこと。


 玲奈との対立も、御影の宣言も。


「ほんとは、こんな役やだったんだよね。私の柄じゃないし、友達を騙すみたいでさ。師匠から頼まれたからやったんで、あんたの為じゃないから。眼鏡は頭は良いけど、肝心なときに失敗するタイプだよね。聞いたよ、会場に入った時ビビってたんだよね」


「実行し行動に移したのは全部御影。眼鏡は初戦が始まる時ぶるってた」


 カティナはこの話しが決まった時、難色を示し、このクラブのためにやると決め、そのことで鬱憤が溜まっていたので今のはほんの意趣返しだ。


 ちなみに、この事を話したのは美夜と三下だ。


「や、た(皆やりすぎだよ、第二戦目だけどすごくかっこよかったよ」)」


「ふっ、僕はビビリで所詮頭だけの男なのだよ」


 種次がどんよりと落ち込み、やりすぎたと思ったのか、三人がフォローに回っている。


 それを飲みながら、合いの手を交え静観している御影と舞先生。まるで何かを待っているようだった。


 そして、それは訪れる。


 きたか。


 突然、五人がふらつき、眠りについた。


 御影は立ち上がる。


「行くのか、私に頼ってもいいんだぞ」


「舞先生は皆を頼みます。自分の契約者は自分で守ります。それに今回の暗殺者には借りがありますから」


 そういって御影は足早に店を去る。


 それを見ながら、舞先生は酒が入ったグラスを傾ける。


「ここは異世界じゃないんだぞ。お前が・・・・・・である必要もない。先生らしく生徒を守りながら、後で聞こうとしようか、この一連の出来事の結末を。だから、あまり背負いすぎるんじゃないぞ御影」

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