101 転生者会議 その4
「ユーリ、説明は手早く頼むよ。一時間で会議が始まるからね」
「ええ、なので簡単に
会議室の傍にあった一室で待っていた
さて、この六人の枢機卿猊下は彼らは私に好意的に振る舞ってくれる人たちだが、処女宮様と
処女宮様が議題を出すにしても、彼らは納得しなければ絶対に提案に賛成しない。
会議に出す前に、私が彼らを納得させ、票を確保する必要がある。
(急がなければ……)
二つしか議題がない、ではない。二つも議題がある。近畿連合の貿易の件、それとニャンタジーランドの港の件だ。
特に港の件は有耶無耶にされないうちに使者を送る必要がある。気が変わったので駄目です、では困るのだ。
(懸念は巨蟹宮様と獅子宮様だな)
私は輸出した方がいいと判断したが、神国でも別にスライムや装備に余裕があるわけではない。
どちらも防衛に十分な数は揃えているし、供給体制も作った。
だがスライムは
装備も同じだ。使えば壊れる。たくさんあればあるだけ良いものだ。
余ったって問題がない、というより余るならそれでもいい(スライムは養うのに餌代が必要なので余りすぎれば困るが)。
なので、これからニャンタジーランドと一戦する恐れもある以上、何があるかわからない現状では、それらの兵器類を輸出しない選択は神国では十分に
――だが私は輸出した方がいいと判断した。
それは『近畿連合』の延命のためではない。神国の発展のためにだ。
スライムも武器も戦略物資だが、同時に高い価値を持つ資産でもある。
これを神国の国内にとどめておけばこれらの資産は動かない。それは
神国がこれからを生きるにはこれらの資産を動かして富を生ませ、神国の力にする必要がある。
「まずこれを見てください」
ざっと、テーブルに私は地図を広げようとするも、腕の長さが足りなく、広がらなかった。
白羊宮様たちがそっと地図の端を抑えてくれる。
助かります、と頭を下げつつ、日本地図に私は国名を書き込んでいく。
判明した近畿連合と神門幕府、北方諸国連合の国名だ。
王国などの判明している国名はすでに書いてある。
「先程、
「……処女宮はだからよぉ……」
「獅子宮、時間がないよ。文句は後で。まずはユーリの話を聞こう」
舌打ちする獅子宮様に頭を下げつつ、話を続けようとすれば白羊宮様が「ユーリくんが処女宮になればいいのに」とボソリと呟いたので私はいえ、と首を振った。
「私が処女宮になどとんでもないことです。全ては女神アマチカが決めることですから。それに処女宮様は私を見出し、使徒という大役を任せてくださいました。だからというわけではありませんが、私が考えているのは、その御恩に一心に報いることだけです」
とだけ言えば白羊宮様も自分に発言に驚いた顔をして処女宮様に向かって頭を下げた。
いいよいいよと手を振って微笑む処女宮様だが、おそらくその内心は複雑なものだろう。
(あとで白羊宮様にフォローを入れておくか。信仰ゲージの維持に処女宮様が努めている限り彼女が殺されることはないだろうが、疑心は少ないほうがいいな)
処女宮様は、なんというか、
私にとってそういう心理的な位置にいる処女宮様を私が排除しては、私の精神がおかしくなるだろう。
それと白羊宮様。彼女の票が欲しいがために声を掛けたが、この国は彼女にストレスを掛けすぎている。
彼女は可憐な少女にも見えるがその内面は重圧に苦しみ
なんでもないさ。とにかく話を進めよう。私は地図の上の北方諸国連合を指差し、情報の共有を始める。
「まず、発端は七年前です。この茨城と呼ばれる土地にあった国が大規模襲撃で滅亡し、くじら王国がその土地の領有を宣言し――
◇◆◇◆◇
――以上のことから、この貿易策によって『神門幕府』と『近畿連合』の戦争は長大化し、泥沼となることで両国家の拡大は当面抑えられるでしょう。また、そのことで西の脅威が減少し、『七龍帝国』も我が国への圧力を減少させるはずです。そのうえで七龍帝国が神国の領土に出現する殺人機械の脅威を知れば無理をしてまで我が国に手を出そうとは思わないでしょう」
少なくとも、帝国も他の弱い国を襲おうと考えるはずだ。
「帝国の動きに希望的観測が見られますが、道理は通っていますね」
白い髪の少女、双児宮様がふむ、と頷きながら私の意見に賛成してくれた。
巨蟹宮様は考えている様子だったが「しないよりはマシかな」と消極的な賛成を示してくれる。
「だが、スライムと武器を輸出するんだろう? 武器の輸出をニャンタジーランドはどう思う? 警戒するんじゃねぇのか?」
獅子宮様の言葉は確かに、という内容だ。武器の輸出は攻撃目標になる危険性に繋がる。
つまり大阪湾で貿易をしているだろう神門幕府が近畿連合への武器供与先を突き止めて攻撃する可能性についてだ。
彼らも船を持っているなら船による武器供与についてはバレる恐れがある。
「はい。そのために我が国は港だけ借りることにしました。輸出物品についてはニャンタジーランドには麦だのワインだのと誤魔化します。我が国で船を建造し、我が国の水夫を使うことで彼らには貿易には関わらせません。また同時に海軍を育てます。神門幕府が攻撃してきたら逆に沈め返します」
鹵獲してもいい。神門幕府の水夫と船が手に入るならそれはそれでおいしい。
「珍しく過激だなユーリ。ついでにそれも希望的観測に過ぎないか? 我が国はまだ船の一隻も作っていないんだぞ」
宝瓶宮様が珍しく突っ込んでくるが私は太平洋を指で突きながら断言する。
「そもそも妨害は確実にあります。貿易船には護衛もつけます。でもそういう話ではないんですこれは。皆様、我が国は、神国アマチカは強くならなければなりません。この世界は一年後にでも乱世に突入します。ゆえに我々は備えなければならない。失敗することを恐れ、亀のように身を縮めていれば、次に顔を出したときには首に刃が落ちてきてもおかしくないのです」
私がそう言えば、磨羯宮様がそのでっぷりとした腹を揺らしながら「亀が何かはわからないが」と他の枢機卿猊下たちを見ながらふん、と鼻をならした。
「ユーリ、拙僧は感心した」
どういうことかと皆が磨羯宮様に視線を向ければ「今、この場の全員が、この地図を見て、
「船という手段も
「……いえ、私はできることを模索していただけです」
「巨蟹宮よ、獅子宮よ。この策の面白いところはな」
磨羯宮様はすぅーっと、東北の方に指を伸ばす。それは王国や北方諸国連合の位置だ。
「航海技術を育成することで、我が国は王国と北方諸国連合が争った場合に、北方諸国連合が敗北しそうになれば武器供与をできる点にある。それはつまり我が国が彼らの争いをコントロールできるようになる、ということでもある」
さらにさらにと磨羯宮様は言葉を続ける。
「貿易ができるということはもうその時点で不戦条約を結んだも同じということだ。近畿連合とな。これは強いぞ。この争いで近畿連合が勝てば我らは勝者の国と縁を結んだということになる」
「それを言えば神門幕府が勝てば彼らから恨まれる恐れがあるが、どうだ?」
宝瓶宮様が茶々を入れるように言えば磨羯宮様は「恨みはしまいだろうが、開戦の口実にはされそうだの」となんでもない顔をして頷いた。
そして怯える白羊宮様に「どのみち神門幕府が隣に来た時点で我が国は侵略されるだろう」と自信満々に言い切る。
「ゆえに弱い国のままではいられぬのだ。早急に国土を広げる必要がある。それにのう、皆、ユーリが大きく語ったことで視点がズレたが、この策は第一段階の貿易の時点で我が国に
考えが浸透していくまで磨羯宮様が口を閉じれば、なるほど、皆が頷いていく。
磨羯宮様は笑ってみせた。
「そういうことなのだよ。この策に利はある。武器を供与しなくとも、麦でもなんでも余っているものを売ればいいのだ。のうユーリ。そうして、できるなら近畿連合の魔法のレシピが欲しいな」
と磨羯宮様が笑って言えば、獅子宮様が「そっちが目的じゃねぇか。やたらとガキを褒めるからおかしいと思ったぜ」とにやりと口角を上げ「俺も既にバチバチやりあってる国の武器を触ってみてぇな」と言ってくれる。
「素材とレシピが手に入るなら、詰まっている技術ツリーを進められるかもな」
「わ、私も、珍しい動物とかいるかもしれないし……」
「ええ、そうね。子どもたちの教育にいいものもあるかも」
宝瓶宮様、白羊宮様や双児宮様も賛成してくれた。
磨羯宮様に私はそっと目線を向ければ、貸し一つというように片目を閉じてみせる磨羯宮様。
そして暫く考え込んでいた巨蟹宮様は、ゆっくりと頷き、賛成を表明した。
「わかりました。
「よろしいのですか? 巨蟹宮様」
「案を出したユーリが何を言ってるんだい。それに私もこの案自体は気に入っているよ。うまくやれば他国の動静をコントロールできるというのが面白いからね。うちの兵に死人が出ないならなんでもやってやるさ」
そうして時間がやってきて、処女宮様を連れて六人は去っていき、私は安堵の息を吐くのだった。
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