017 大規模襲撃その4
「生産スキル持ちは全員集まれ! 処女宮様の使徒に任じられたユーリだ! 今から指示を出す!!」
倉庫で兵の編成がされていく。処女宮もとい女神である天国千花は与えられた生徒たちを前に一緒に声を上げている。
「せ、戦闘部隊はこっちに集まって! ええっと、ゆ、ユーリくん、この子たち、本当に戦わせるの?」
「馬鹿ですか!!」
「ば、え、で、でも」
酷い、と思っただけどユーリという千花の『使徒』は「子供ですよ!
「う、うん」
今まで指針もなくただ生き延びたいと
ユーリは生産持ちをさっさと部隊にわけてしまうと「まず、全員座禅を組んでください」と全員を座らせていく。
「処女宮様、その、いいのですか? ただの子供に、使徒などという大役を」
神官の一人だ。老年の男性で、学者の教師に任じていた
かちん、と来た。大役? 大役だと。そうだ、その大役を今まで私一人が任せられてきたんだ。右も左もわからないまま、十年もずっと。
それをやっと
千花はいつもの面を被った。女神アマチカの言葉を伝える
十二天座の一人として神官に相対する。
「女神アマチカはユーリくんに任せろと私に神託を与えました。ヨートソー神官、あなたは神を信じていますか?」
ヨートソーと呼ばれた老神官は慌てて「い、いえ、女神様の神託の通りに」と顔を伏せる。
(その程度の弱々しさで意見をしないでほしいよ……)
獅子宮ぐらいに威勢が良ければ反対意見は芯のある頼もしい意見になるのに、と千花は思う。
(そうだ。指示をされてたんだ)
千花はウィンドウから部隊の編成画面を呼び出した。ユーリに指示された編成をやらなければならない。
とはいえ、この画面を触るのは前回の大規模襲撃以来だった。迫りくる殺人機械たちに対して、編成した国民を次々と肉の壁にすることでしか国を守れなかったときを思い出して顔が青くなる。
(そ、それをさせないために、がんばらないと……)
震える指で、部隊を編成していく。
まず神官たちを子供たちのリーダーとして据える。
教師である大人の神官の数は兵として使うなら多くない。だが指揮官として設定すれば逆に多いぐらいだ。
(ちょっと部隊多いかな? まぁいいか……)
大は小を兼ねるというし、と高校生だったときに教わった意味もあまり覚えていない言葉をつぶやきながら次は、と千花は操作を続ける。
丹念にステータスを見ながら小僧たちを部隊に振り分けていく作業だ。
今まではおまかせ機能や他の十二天座に任せてしまっていた作業だ。生来数字を見るのは苦手で、学校の勉強もなおざりだった。
でも今はユーリくんが見ているから、と千花は集中する。
小僧たちを振り分け、生徒一人一人のパラメーターとスキルで
「で、できた……」
どれだけの時間が経っただろうか。
気づけば千花の前に立つ生徒たちは無言で、だが不安に顔を染めていた。
神官たちも同様だ。小僧たちも皆が処女宮である千花をじぃっと見ていた。
――ああ、これが嫌だった。
千花は湿った、だが期待と不安に揺れる視線から逃れるように背後を見た。
そこにはユーリと、ユーリが使徒の権限で編成できるようになった生産部隊がいる。作業をしている。
錬金術を始めとして、縫製、鍛冶、料理、付与などの各生産スキル持ち。また、器用と知能やSPなどのパラメーターブーストスキルやものひろいのスキル持ちだ。
彼らは黙々とアイテムやそのための準備に動いている。
(え……? 嘘)
千花はウィンドウに増えていく生産物を見て心底から驚いた。
今まで宝瓶宮にまかせていたアイテム生産を最近はしっかりと見るようになったから、なんとなくスキルで生産を行えばどの程度素材が
生産スキルにおける素材消失はスキル使用時に確率で示されるから、千花はそれが絶対に起きるものだと今までは思っていた。
その素材の消失がここでは起きていなかった。
まるで魔法のようだと千花は驚いた。
――ユーリの部隊には失敗が存在しない。
しかも宝瓶宮の生産ではほぼ存在しない+1のアイテムが大量に混ざっている。
ユーリだけではない、ユーリが率いた瞬間から多くの生徒や神官がそれを行えていた。
(すごい、すごいよ)
千花にはユーリはまさしく生産スキルの天才で、そして優れた教師に見えた。
戦術に関する手腕も千花よりずっと優れてて、さきほどユーリが指示を出した部隊は着々と戦線を構築しなおしている。
技術ツリーを見れば一気に機械系を含めた全ツリーが進行していた。宝瓶宮の10年の成果に勝る技術開発をたったの数時間で進めていた。
(で、でもゆ、ユーリくん。わ、私そんな権能は与えてないよ)
使徒に与えられる権能はほんの少しのステータス上昇と軍団編成権限ぐらいのものだ。
あとは主の持つ権能の一部、処女宮であれば、ユーザーインターフェースの操作権限の貸与、それだけだ。
だから、千花はこの少年のことをすぐに好きになってしまう。
子供なれど頼れる男がここにいる。全てを任せてしまえる甘美さに酔いしれる。
千花の作業が終わったことに気づいたんだろう。ユーリが歩いてくる。
「処女宮様、獅子宮様と巨蟹宮様の部隊を都市近くまで戻しています。足の速い部隊は、よかった。編成できてますね。彼らに装備を届けさせてください」
医療部隊はどうですか、と聞かれ「で、できてるよ」と言えばユーリは「よくできましたね」と千花を褒めてくれる。
千花は「ありがとう」と笑顔を浮かべて「そ、それで何を指示すればいいのかな?」とユーリに問う。
一瞬、馬鹿を見る目で見られた気がしたが自分を助けてくれるユーリがそんな顔をするわけがないと千花は「そ、それで?」と問えば「倉庫の外にいる負傷者の治療に当たらせてください。ポーションや食料も作りました。ああ、バフを付与できる食事アイテムがあるので配達部隊には必ず食べさせてください」と細かく指示を出してくれる。
とにかく千花は一言一句忘れないように覚えてそうしてから配下の神官たちに指示を出した。
不安に顔を曇らせていた神官たちも指示を与えられれば精力的に動き出す。
「ゆ、ユーリくん、つ、杖とか作ったの?」
ふと気づく。ユーリの装備品が『生徒用ローブ』から変わっていた。作ったんだろう。全身の装備が+のついた知能特化装備に変わっていた。
ステータスは何事にも重要だ。
生産スキルの成功率は知能や器用のステータスによって変わる。
だから生産を担当する宝瓶宮や白羊宮に千花は現在作れる最高の装備を与えている。
もっとも彼女たちは与えられた役割である農業や牧畜でしか結果を出せていないので千花からの評価は下がっていたが。
「ああ、あのまずかったですかね? 機動鎧を作るのに――」
「そ、そんなことない。に、似合ってるよ。すごいね。かっこいいよ」
本心から褒めればユーリは不気味なものを見る目で千花を見てくる。えぇ……と千花は思った。褒めたのに、なんで引いちゃうの、と。
「とにかくあとでこれは返しますよ。それでええと――「ユーリ!!」
何かを言おうとしたユーリの言葉を遮って少女が出てくる。ユーリと同年代の少女だった。誰? と千花はステータスからそれがキリルという名前の、『錬金術』のスキルを持った少女だと知る。
「ユーリ! 休まないと!!」
「ちょ、キリル、処女宮様の前だぞ」
キリルという少女は千花を見て怯えた顔をした。
それでも勇気を出したのか「処女宮様、ユーリは疲れています。休ませてください」と頭を下げてきた。
――
ステータスを見て千花は初めて気づいた。確かにそうだ。ユーリのSPがギリギリまで枯渇している。
「あ、ほ、本当だ」
なんで言ってくれないの、と千花は不安そうにユーリを見て、キリルがユーリを休ませようと肩に手を触れようとして。
「それより処女宮様、機動鎧はできましたけど」
「え、できたの!?」
千花の喜びように驚いたようにキリルが慌てて手を引っ込めた。
できましたよ、というユーリの顔はキリルが言うように確かに疲れているように見える。
それでも千花にはその朗報の方が嬉しかった。
よかった、と。これで戦車に勝てるんだと。
「先程届けるように指示を出しました」
「あ、じゃ、じゃあもう終わり?」
これで勝てるの? という千花の期待に対し、ユーリは「いえ、まだですね」と
「あ、えっと一着しかできなかった、とか」
「いえ、獅子宮様、獅子宮様の使徒様方、巨蟹宮様、巨蟹宮様の使徒様方の分、六着作りました」
ネックだったエンジンの材料はギリギリで足りたので、などとユーリは言いながら「それで言いにくいのですが」と全然言いにくそうではない口調で言った。
「勝手ですがこちらの部隊にも装備を送ってもらえますか? こちらの手帳と一緒に」
送るアイテムのリスト、と題されたウィンドウには、三冊の手帳、移動力上昇の効果がついた装備品が入っている。
ええと、と千花はその理由を少しも考えないで「う、うん、わかったよ」と頷いた。
「とりあえず
疲れたようなユーリの言葉。支えるようにキリルがユーリの肩を支えようとして、千花は思わず「それでその娘はユーリくんのなんなのかな?」と言えば「
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