創世のアルケミスト~前世の記憶を持つ私は崩壊した日本で成り上がる~

止流うず

一章『六歳から始めるブラック国家』

001 プロローグ


 王都・・の聖堂に国中の六歳の子供が集められている。

「次! ローレル村!! 十人並べ!!」

「はい!」

 村長の息子のレッカが歩いていくのに続いて僕たち村の子供たちも続いていく。

 六歳になった子供は聖教の神殿で神様から『スキル』を授かるのだ。

 大人たちが言うにはもらえるスキルが悪くても努力次第で人生はいくらでも豊かにできるらしいけれど、それはそれとして初めてもらえるスキルの才能は伸ばしやすい傾向にあるということで、やはり初めてのスキルは重要だ。

 ドキドキした気分で僕たちローレル村の子供は神官様の前でスキルの授与を待つ。


 ――十連スキルガチャポチッとな。


 女神様の声が聞こえる。十連? よくわからないけれど女神様もドキドキしているらしくSSR出ろという謎の思念が伝わってくる。

 SSR? どういうことだろう。薄目で周囲を隣を見るけれど同じ村の子は目をじっと閉じて黙って待っている。

 僕も怒られても怖いので目を閉じて頭を下げたままにしようとすれば、ぱぁっと天井から降り注ぐ光が強くなってきてびっくりする。

 僕たちの前に立つ神官様たちがざわざわしている。


 ――きゃー! きゃーー! このエフェクトは!! S・S・R!!


 ばりばりとかじゃじゃーんとかいう音が聞こえてくる。う、うるさい。でも女神様の声は楽しそうだ。

 女神様がこんなにうるさいのに他の人たちはただ光の強さに動揺しているだけらしくてざわざわと何事か騒がしい。


 ――にゃ! にゃ! にゃ!! SSR四つ!? 『勇者』『賢者』『聖女』『剣聖』!! うっそぉお神引き! 女神が神引き!!


 僕たちに向けて降り注いでいる光が強さを増す。そのときには僕たちも目を閉じていることなんてできなくて、ただ圧倒的な光の中で息もできずに待つだけだ。


 ――『勇者』は君! 『聖女』は貴女! 『賢者』はこの子で『剣聖』はこっち!!


 光の中でも濃い光が村長の息子レッカに降り注ぎ、ついで司祭様の娘とか魔法使いの弟子とか村の乱暴者に降り注いでいく。


 ――で、あとは適当でいいや。おすすめ装備ポチっとな!!


(え、ちょ、女神様?)

 僕にも弱い光が降り注ぐ。他のみんなより一段と・・・弱い光だ。

 えぇ、ちょっと……。

 理解できてしまう。なんだか今、すごく適当に扱われた。

 光が静まったあとに神官様が僕たち、というより強い光が降り注いだ子たちに問いかける。

「す、スキルは……?」

 神官様の質問に四人の幼馴染たちは口々に勇者だの聖女だのと答えると、すぐさま別室へと連れられてしまう。

 残される僕たち。一応の期待を込めて神官様が僕たちに向けて口を開いた。

「それで貴様たちはなんだった?」

 残された僕を含めた他の子たちが問われた通りに答えれば神官様はそんなものか、という態度で列に戻れと言ってくる。


 ――僕に与えられたのはRスキル『錬金術』だ。


 レアスキル……かぁ。

 大人たちが言うように自分のスキルのことはなんとなくわかるし、できることもなんとなくわかる。

 ただ、これが良いものかと言えばよくわからなくて、でも僕も勇者とかだったらよかったなぁ、なんて考えながら幼馴染たち四人が欠けた列を残された僕たち六人は作るのだった。


                ◇◆◇◆◇


 スキル神殿から出ると僕たちは神官様によって四つのグループに分けられる。

 一つは『戦闘』、一つは『内政』、一つは『特殊』、一つは『帰還』。

「スキル『錬金』は……特殊だな。特殊のグループへ行け」

 僕からスキルを聞き出した神官様は奇妙な板をポチポチと押して僕に特殊グループへ行くように言う。

 言われて進むも、進んだ先の子供は少ない。

(特殊って珍しいのかなぁ)

 戦闘グループには子供がいっぱいいる。

 ただしそこにさっき連れて行かれた幼馴染たちの姿はどこにもない。

(あーあー、あの四人は美味しいものとか食べてるのかなぁ)

 無駄口を叩くと怒られるので心の中でぶつぶつと言ってみる。

 僕たちはすごい雑に扱われているのに、あいつらはすごい丁寧に扱われてたよなぁ。

 せっかくスキルもらったのに、なんか残念だ。

 っていうか僕も戦闘スキルがよかった。

 そうすればモンスターとかバーンとかボーンとかやっつけてやれるのに。

 そんなことを考えていれば神官様が「選別は終わりだな。よしついてこい」と僕たちについてくるように言う。

 白いざらついた石みたいな硬い廊下からつるつるとした石とは違うようなピカピカ床の部屋に僕たちは案内される。

「さて、『村』の大人から聞いていると思うが、お前たちはこれから短くとも六年程度の学習・・を受けてもらう」

 あー父さんが言っていた学校とかいう奴だ。

 頭がよかったり成績がいいともっと先に進めるらしい。ちなみに父さんは六年で帰ってきた。スキルもそんなよくなかったらしいので、そういうことらしい。

 ちなみにさっきの『帰還』のグループに入ると学習を受けずに村に帰されるのだとか。

 僕は帰されなくてよかったから錬金術も馬鹿にできないよね。

「まずは一人ずつこれを受け取れ」

 パンパンと神官様が手をたたくと、神官様の傍にいた見習いの小僧たちが小さな板のようなものを僕たちに渡してくる。

「それが『スマホ・・・』だ」

 へー、ともらったスマホとかいう板を僕たちは手に持ったままぼんやりと頷く。

「女神様が貴様たち用に用意したアイテムだ。壊れたり無くしたりしても再生成はできないので覚悟して扱うように」

 女神様が!? びっくりして落としそうになるけど僕たちはぎゅっとスマホを抱きかかえる。

 早速いじって遊ぼうとしていた子なんかもドキドキした表情でスマホを見ていた。

「ふふ。そう緊張するな。ベルトと鎖を配るからしっかりと身につけておくように」

 見習いの小僧さんたち(小僧と言っても僕たちより年上だよ)がベルトと鎖を配ってくれる。スマホをつけようとして首をひねれば「こうすればいい」と小僧さんがやってくれる。

「ありがとう」

 ん、と頷いて他の子のとこに向かっていく小僧さん。かっこいいなぁああいう年上が村にもいたらなぁ。

 そんなことを考える僕の前で神官様がスマホの使い方を説明している。

「これで電源がつく。上の残り電力を表した四角い目盛りがあるだろう? なに? 目盛りがわからない?」

 黒板にチョークで目盛りというものを書いていく神官様。

 確かにスマホのつるつるとした綺麗なガラスみたいなのにはそんな表示がある。

「この目盛りが残り電力を表している。これがなくなったらスマホの電源は自動的に切れる。切れるの意味がわからない? 電源をつける。切る。こういうのだ。ええい全くこれだから学のない村人は」

 ぶつぶつと言いながら懇切丁寧に教えてくれる神官様。

 スマホは学習の補助に使う。

 スマホの充電は神殿や寮の施設でできる。

 スマホはダンジョン内で使える(重要)。

 売るな。捨てるな。壊すな。脱獄するな。

 神殿にお布施をすることでスマホに『汎用スキル』をインストールできる。

 脱獄とかインストールとかよくわからない単語はあったものの、僕たちは神官様の言葉にいちいち頷きながら最初の学習を終え、そうして案内された寮に連れて行かれ、僕を除いた五人のルームメイトと挨拶したり友達になったりしながら眠りについて――


 ――は目覚めた。


「は?」

 小さな声だった。子供の声だ。の声だ。記憶が混じっている。私の記憶とこの身体ぼくの記憶。

 三十歳まで生きた日本の平均的な成人男性、つまり私の記憶と、奇妙に統制された『村』、いや、大規模農場・・・・・で生きた六歳児の記憶が混ざり合う。

 周囲を見る。コンクリート・・・・・・製の打ちっぱなしの狭い部屋。

 リノリウムらしきつるつるとした床。

 金属製の二段ベッド。

 そして――枕元のスマホ。

「は?」

 って、いうか。

 子供の方の記憶から推察できる。

 農場からこの大神殿に来る旅の中で見たもの。

 ペンキの剥げた日本語の看板、半欠けの道路標識、壊れた信号機、千切れた電線。

 崩れたアスファルトの道路、半壊した巨大ビル群。

「日本……崩壊してません?」

 起き上がる。立ち上がって窓から外を見る。

 窓から映る月は何かがえぐり取ったかのように半分が欠けていた。

 月光が照らす地上の景色は、まるで崩壊した東京の街並みのようにも見えた。


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