恋に狂った愚かな女王

イケヅキカショウ

短き悲恋の物語

私には最愛の人がいた。強くて、優しくて、賢い人。

最初はお互いにぎこちなかったけど、共に時間を過ごしていくうちに互いに惹かれあっていった。

でも、私は王家の女。民を導く女王という未来を定められた人間。私は自分の意志で共に歩む物を選べない。


「あぁ、愛しい貴方!どうして私たちは結ばれてはならないの......?」


でもわかっていた。仕方がないことだった。だって、生まれてこれる家は選べないもの。王家に生まれた時点でもう私には自由なんて無かった。

......けど。......だけど。それでも私は彼への思いを捨てられなかった。

そして遂に私は彼と国を抜け出して......結ばれた。

それからは幸せだった。最愛の人と毎日共に同じ時間を歩む。王家よりもずっとずっと、満ち足りた時間。幸せ。彼さえいれば他に何も要らなかった。


でも、幸せな時間は長くは続かなかった。


彼は、殺された。


私を連れ去ったという罪を着せられていたらしい。


私はなんということをしてしまったのだろう。


最愛の人を、己の願望を叶える為に殺してしまった。


こんなつもりじゃなかった。


あぁぁ......


あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!


声にならない絶叫が私の頭に、心に響く。己が愚かさの後悔。そして悲哀が私を黒く染め上げる。


......私は連れ戻された。国に。彼の居ない楽園に。そして直ぐに、


王女となった。


政治は上手くいかなかった。


何をやっても上手くいかない。


そしていつからか嘲笑われるようになった。


愚かな男と「恋に狂った愚かな王女」と。


愚か......?彼ガ......?違う。愚かナのハオ前たちダ。


キサマら如キに何ガわカる......?


笑うナ。笑ウナ。彼を笑ウ権利なド貴様らにハナい。


粛清ダ。愚かト指差シカレを笑ウ者ニ死ヲ。


殺セ殺セ。我ガ悲哀ヲソノ首ニ刻ミツケテヤル。


殺セ。殺セ。


殺セェェェェェェェェェェェェェェェェェェッッッ!!!!


...


私ハ殺シタ。彼ヲ笑イ、侮辱シタ者達ヲ。


民モ。家臣モ。家族ヲモ。


私ハナッテシマッタ。「恋に狂った愚かな女王」二。


......


「これより!恋に狂った愚かな女王の処刑を行う!」


高ラカニ響ク男ノ声ガ私ノ死ヲ知ラセル。


私ハ負ケタ。民二。ソシテ私ハ「恋に狂った愚かな女王」トシテ。


刃ガ天二掲ゲラレル。


私ハ何処デ間違ッタノダロウ?


恋ヲシタコト?


彼ト逃ゲタコト?


ワカラナイ。ワカラナイ。


刃ガ降リル。


私ハ目ヲ閉ジ、全テヲ受ケイレタ。


ソの時ダッた。脳裏に不意二彼との思イ出が過ぎっタ。


私はその記憶ヲ、アルバムをめくるよウにゆっくりと眺メる。


彼と過ごシた日々を振り返ッて、私は死ンだ。


でも、死ぬ前に私は笑った。一縷の涙を流した。そして、歓喜の声をあげた。


「あぁ、ようやく、貴方の元に行けるのね......」


恋に狂った愚かな女王は、幸せな幻想と共に首を断たれた。地に転がった彼女の首は、苦しみも、憎悪をもなく、ただただ幸せに満ちていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋に狂った愚かな女王 イケヅキカショウ @9629time

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ