いらないモノ リスト
RAG
第一話 ある母子の記録
こんな噂がある。
深夜0時から1分間だけ開かれる、特殊なサイトがあるのを。
そのサイトに『いらない物』を書き込めば、次の日には無くなっているという噂だ。
現にママ友の間でも『いらない物』を書いて処分しているという。
不思議なのは、どうやって無くなるかだ。そればっかりはよく分からない。
だけどもし・・・・・・その話が本当なら。
私は『息子』を棄てたいと書くだろう。
息子はカワイイ。やはり腹を痛めて産んだ子だからだ。
やんちゃで、わがままで、でも誰よりもわが身を案じてくれている。
周りはそんな私たちを見て、仲良し親子だというだろう。私自身もそう思っている。
だけども・・・・・・。私は息子に恐怖を感じる。
笑った時のえくぼ。口角の上がった顔。うっすらと影が見える、アノ男の影が。
今の主人はとにかく優しくしてくれる。私がヒステリー持ちだからとか、そんな事ではなく、本当に優しいのだ。
もしも、あの事を正直に話せば。彼ならきっと許してくれるはずであろうし、優しく抱きしめて慰めてくれる。
だけれども、怖いのだ。彼との絆が壊れるのが。また一から修復しないといけない関係というのが。
だから私は黙っている。死ぬまでこの秘密を守り抜く。
その秘密を破るのが息子であるとも知っている。成長すれば幾ら主人でも気づくだろう。自分と顔が似ていないという事に。
日々を怯えながら過ごす私に、そのサイトの噂が届いたのは先週からだ。
なんでも無料で引き取ってくれるネットショッピングがあると聞いた私は、普段から仲良くさせてもらっているボスママに連絡を取り、そのサイトの事を聞いた。
深夜0時から1分間だけ。その間に『いらない物』をリストに書いておけば、翌日には無くなっているという。
ボスママが試しに書いてみた所、確かに無くなっていたという。処分に困っていたと言っていたので、相当無くしたかったようだ。
それならば、私でも出来そうだ。深夜0時までに家事を終わらせ、その時が来るのを待った。
深夜0時。ここだ。大手ネットショッピングに似た内装だから、勝手が分かる。
リストを作成して、『いらない物』を書いていく。試しに、息子が壊した玩具を書いてみよう。
書き終わった途端。画面が切り替わり、いつものホームページに戻っていた。
期待に胸を膨らませながら、私は眠りに付いた。
翌日。壊した玩具を探していた主人が、玩具を棄てたかどうかを尋ねてきた。
私は知らないと嘘をついた。主人は肩を落として、息子の方へと向かっていった。
その日から、私は不要な物をどんどんとリストに書き込んでいった。
1分間だけという時間制限があるが、不思議な事に次々と要らないと思うものが出てくるのだ。
書き終えたその日は、ぐっすりと眠れる。そして翌日には主人が探し物をしている。
これならいける。あの息子を消せる。そして主人とやり直せる。
今日が息子の最後という事もあって、晩御飯は豪勢にした。息子の好きなハンバーグにフライドポテト。デザートにはケーキも用意した。
息子は喜んでいた。「まま大好き」とも言ってくれた。わずかに胸が痛む。
主人が息子を寝かしつけ、主人も眠った所で携帯を開く。
あの時間。決まった時間。正確に息子の名前を入力し、ブラウザを閉じた。
心臓の鼓動が早い。どくどくと脈打ち胸が苦しい。それも、今日で終わりだ。
さようなら愛する息子。さようなら、憎き養父に似た顔よ。
倒れるように布団に入った私に、息子が寝ぼけて抱き着いてきた。これも今日でおしまいだ。思う存分甘えさせてやろう・・・・・・。
――夢を見た。
ママ、ママと。自分を呼ぶ声。その方向に向かって歩くが、何時まで経ってもたどり着けない。
渦巻き状の何かが壁を這い、それは幾つも存在していく。穴の奥から聞こえるのは何かの声。
「ステナイデ・・・・・・ステナイデ・・・・・・ヤメテ・・・・・・」
機械音声が鳴り響く。ガリガリと何かの音がする。時折、人間のような声も混ざって聞こえてきた。
「おく・・・・・・さん・・・・・・。タスケ・・・・・・タスケ・・・・・・テ・・・・・・」
渦巻の先に、見覚えのある手が生えていた。豪勢な指輪を付けたその手を、私は知っている。
あれは、ボスママの手だ。どうして彼女がここに?
いや、なぜ、私はここにいるのだ。
「マ・・・・・・マ・・・・・・」
足に強い衝撃が走る。恐る恐る足を見ると、最初に自分が捨てた玩具が、足に噛みついているではないか。
「離して!」
足を振り回すも、玩具は外れない。それどころか、段々と足に組み込まれていく気がする。玩具と足が、融合していく。
「イヤ!やめてよ!」
今度は古くなったカバン。ホース。フォークなどが自分めがけて振ってくる。玩具と同様にそれらは体に絡みつき、纏い、やがては同質化していく。
自分が自分ではなくなる感覚。辛うじて出した声は、あのボスママの声に似ていた。
「おね・・・・・・オネガイ・・・・・・ハナレテヨ・・・・・・」
機械か無機物が混ざり合い、私の体は私ではなくなっていく。やがて足元にはあの渦巻状の何かが出てきていた。
「アナタ・・・・・・タスケ・・・・・・て」
手を伸ばす。出来るだけ遠くに。誰かが助けてくれる。そう信じた。
その手を、温かい何かが包んだ。
渦巻状の中、もはや眼さえ見えない。誰が掴んだかさえ分からない。
ああ、でも分かる。これは、キット――。
「バイバイ。ママ」
その言葉を聞いた途端。全ての意識がシャットダウンされた。暗黒だけが広がる無の空間に、全てが包まれていった。
「ニュースです。今度は同じアパートで3名の人が行方不明になっています。1人は詐欺罪で起訴されていた女性で、多くの貴金属を同じアパートの住人から盗んでいたようです。残る2人は母子です。主人の話によると、突然消えたとも話が・・・・・・」
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