孤独な石
Lugh
孤独な石
その石は孤独だった。
荒廃した都市の道の真ん中で、石は横たわっていた。昼は太陽の光をまぶしく反射し、夜は星々の静寂に耳を傾ける。最近では、新しい楽しみを見つけた。ひび割れた道路から草木が新しい生命を芽吹かせるのを眺めていることだ。のどかな日々だった。そんな日々も石にとっては退屈ではなかった。人類が栄華を極めた時代に比べれば、刺激が少々もの足りないが。
その石がまだ人間の手のなかにあったころ。人間にとって、その石は価値のあるものらしかった。絶えず人の手からまた人の手へと移り、人間とともに様々な場所を旅した。人類の進化を間近で見ることができた。
人類の進化は快調だった。科学技術の進歩は目覚ましく、百年も経てば人間の生活は様変わりして便利になっていった。寿命は延びて、かわりに事故や病気が減った。人間がしていた労働は、機械が務めるようになった。スポーツや芸術、恋愛など、趣味に生きる人間が多くなり、人々の顔に笑顔が溢れる。
そのころになると、石の価値はますます高くなった。きらびやかな装飾に用いられることが多かった。装飾の中心に据えられて、石も悪い気はしなかった。
いつもまでもつづくと思われた平和だったが、そう長くはなかった。
科学技術の進歩は、科学兵器にも及んでいた。より効率よく人間を殺すことができる兵器がたくさん開発された。軍備を増強すると、周りの国もそれに呼応して軍備を増強するのであった。軍備が増強されるとともに、世界の緊張もまた高まっていく。
ボタンひとつで滅ぶ世界。人々の顔から笑顔が消えた。いつはじまるかわからない争いの恐怖に怯えていた。あまりの恐怖に病気になる人間もいた。
平和を訴える国もあった。が、その国もまた防衛のためだと称して軍備を増強していたため、耳を持つ国はなかった。
どんなに科学技術が進歩しても、人間は他人を信頼することができなかった。
とうとう恐怖に耐えかねたのか。ある国でミサイルが放たれた。
最初は一部地域での小さな戦争だったが、瞬く間に世界中へと広がった。やがて、劣勢になった国が核兵器を使った。一度使われると、ドミノ倒しのように他の国々も使いはじめた。地球上で核兵器が撃ち込まれなかったところはないだろう。
世界大戦の終わりは、人類の終わりでもあった。
最後の世界大戦は、勝者なくして終焉を迎えた。
運良く大戦を生き抜いた石は、いまも地球上のどこかで佇んでいる。
荒廃した都市は少しずつ、だが確実に自然に侵食されていた。人類のいなくなった地球は、太古の姿を取り戻すだろう。
石はときどき昔のことを思い出し、懐かしむのであった。石にとって、自慢の輝きを見て喜んでくれる人がいないのは、少し寂しかった。
その石は、かつて人間からダイヤモンドと呼ばれていた。人間にとって高い価値を持ったものだった。しかし、それも昔の話だ。いまや人間のいなくなった地球上で、その価値を認めてくれるものはいないのだから。
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