雪を溶く熱

いいの すけこ

第1話

 中学校を卒業した三月の夜、雪が降った。

 桜前線ももう日本の半分まで進んだというのに。つい先日、咲き始めた桜の下で卒業写真を撮ったというのに、だ。

「どうりで寒いわけだよ。せっかくあったかくなったと思ったのにな」

 冬生まれだけど、寒いのが好きってわけじゃない。冬に生まれたからつけられた、美冬みふゆって名前は気に入ってるけども。好きな季節は春だ。

「積もるのかなあ」

 寒いのは嫌だなあ。そう思いながらも、季節外れの雪にときめくのもまた否定できなかった。

 部屋の窓から外をのぞく。濡れて光る道路は黒いままで、まだ雪が積もるほどではない。街灯に照らされているのは果たして雨だろうか、雪だろうかと目を凝らし見てもよくわからなくて、窓を開けた。

「雪だ」

 私は思わず口にした。

 部屋と外を分けるガラスが一枚無くなっただけで、夜の闇がぐっと近くなる。暗い中に降り注ぐ白い雪が、今度こそはっきりと分かった。

 窓の外に手を差し出す。手のひらに乗った雪片は、一瞬で体温に溶けてしまった。

「雪なんて、久々かも」

 去年もその前の年も、雪は降らなかった。せいぜいがみぞれとか、ちょっと舞ったくらい。

 たくさん積もって雪遊びができるくらい降ったのは、三年前、小学校を卒業する年だった。その前だと、小学二年生のころ。

 

 その時は、アキくんと一緒にいた。


 すぐ近所に住む、幼馴染の檜垣秋人ひがきあきひとくん。

 私の家は、なだらかな坂を上った突き当りにあって、アキくんの家は坂を下りきったところにあった。

 坂の途中にある家には、他に小さな子どもがいる家はなかったし。アキくんとは同い年で、幼稚園から中学校までずっと一緒だった。

 だから私たちは、しょっちゅう一緒に遊んだ。かけっこ、おままごと。バドミントンとかなわとびとか。外で遊ぶように言われていたから、坂道を庭か広場かのように遊びまわったものだ。

(でも、卒業式でも話さなかった)

 あんなに一緒に遊んだのに。

 あんなに一緒に過ごしたのに。

 私とアキくんは、今ではほとんどかかわりが無くなってしまった。

 小学校を卒業する頃から、私たちはすっかり疎遠になってしまったのだ。


 窓の外、坂の下に視線を向ける。うちよりもずっと古い造りの、アキくんのおうちがあった。一緒に住んでるおばあちゃんが、新妻さんだった昔からあるのだろう。

 今、あのおうちに住んでいるのは、アキ君とおばあちゃんの二人だけ。

(あれ)

 雪の中、誰かが坂を上ってくるのが見えた。坂はうちの前で行き止まりだから、途中のどこのおうちに入って行くのだろうと、なんとなく眺めていたら。


「アキくん」

 坂道の始まりにおうちがあるアキくんが、私の家でおしまいの坂を上って来ていた。




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