(三)‐6

「ところで絵は、段ボールの中ですか?」

「いえ、今日来た新人に渡しました」

 大橋の問いに上原が答えた。

「そういえば、あいつはどこに行った」

 鉢山が上原に聞いた。

「さあ。さっきまでいましたけど」

 上原はコンテナの扉の所まで来て左右を見回した。鉢山も上原の所まで来て見回した。

「どこにもいないぞ」

「こちらに来るときにすれ違ったりしませんでしたか?」

 鉢山は大橋に聞いた。

「いや。この倉庫に入ってからは誰ともすれ違っていない。敷地に入ってこの倉庫に来るまでの間には何人かすれ違ったが」

「ちなみに、その新人って、どんな格好をしていました?」

 小柄な東山が聞いた。

「グレーのスーツ姿の若い女性です。持ち物はハンドバッグを肩に掛けていた程度だったので、絵を持っていたらすぐにわかりそうですが」

「すれ違っていないぞ、そんな人間には。フォークリフトに乗った初老の作業員と、スーツ姿の中年男性の二人くらいだな」

「じゃあ、須賀とやらは一体どこへ行っちまったんだ」

「それで、絵は?」

 鉢山の言葉を遮るように、大橋が語気を強めて尋ねてきた。

「その新人が持ってます」

 上原がそう言うと、大橋は「すぐに探せ!」と怒鳴った。「恐らくそいつが広尾だ!」

 鉢山たち四人はすぐさまコンテナから出た。

「お二人は倉庫の中を頼みます、自分らは外を見てきます」

 大橋が指示を出すと、県警の二人は倉庫の外へ駆けて行った。鉢山と上原は同時に「了解」と答えてから左右に分かれて倉庫の中の捜索にとりかかった。


(続く)

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