(四)‐2

 その後、鉢山たちは事務所の前に駐めたパトカーまで戻ってきた。臨港署のパトカーの隣に県警の覆面パトカーが駐めてあった。

 鉢山は上原に無線で須賀若葉という女性警官のことを署に照会させた。署の方ではそのような人間は把握していないとのことだった。県警の方にも大橋が問い合わせた。少なくともここ一ヶ月間は、須賀という名前の人間に異動の辞令は出ていないとのことだった。

 先ほど対応してくれた事務所の若い男性事務員は、須賀らしきスーツ姿の女性が絵のような包みを持って堂々と正面出入り口から出ていくところを事務所の中から見たそうだ。

 大橋は眉間にしわを寄せたまま、「大失態でしたな」とひとこと言い残し、乗ってきたパトカーで県警本部へ帰っていった。三つの段ボール箱はもちろん東山が持って行った。

「きっと先に署に戻って押収物の保管手続きをしているのでしょう」

 鉢山は、立ち去る前の大橋に取り繕ってそう言ったものの、半信半疑だった。確かに現場に一緒に来たはずだったのに気づいたらいつの間にかいなくなっていた。まるで狐につままれたようだった。もしかすると、有能な刑事で、証拠物件を先に署に持って帰ったかもしれないと、ふと考えた。可能性としてはあり得ないだろうと理性では思ったが。


(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る