(二)‐2
三人は事務所のカウンターの前まできた。
作業着を着た若い事務員の男性が立ち上がった。
「一五番の倉庫に『いおぎりん』の名義で荷物を預けているのだが」
鉢山がそう言うと、事務員は帳簿をめくり始め、名前を確認した。
「いおぎりん……様ですか、お名前がないようですね」
「そんなわけはないだろう、井戸の井、荻窪の荻、そして木が二本の林で、『いおぎりん』だ」
上原がフォローした。
「ああ、その漢字ですか。ちょっと待って下さい……」
再び帳簿をめくると、事務員は名前を見つけ、動きを止めた。
「いはぎはやし……様、でしたっけ」
「『い・お・ぎ・り・ん』だ」
鉢山が言った。
「ええ、ありますね。そうしたら、身分証をお持ちですか、それとここに記帳を……」
事務員が利用者の名前を記すためのノートをカウンターの上に置くのと同時に、鉢山が背広のポケットから警察手帳を見せて「警察だ」と短く言った。
「臨港署の捜査課だ。盗難品の押収に来た。案内してくれるか」
上原が続けた。
事務員は驚きの声を上げ、「少々お待ち下さい」と言って事務所の奥の方へ行ってしまった。そして上司らしき年配の男性と一緒に戻ってきた。そして年配の男性は鉢山に向かって言った
「臨港署の方ですね。ご案内します、こちらです。ちなみに私は神(じん)といいます」
「神泉水」と書かれたネームプレートを首から下げた男性が先導し、三人は事務所を出た。
(続く)
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