犯行の礼状【快盗広尾シリーズ】

筑紫榛名@5/19文フリ東京【あ-20】

(一)

 鉢山と上原は二階フロアから駆け足で階段を下りていき、臨海警察署を出ようとしていた。県警本部から指令があり、盗難にあった証拠品を押収しに行くのだ。犯人は既に県警に逮捕され、自供を得たので証拠を確保するために指示が出たということだった。

 警察署の入口のガラスドアを押し開けたところで、鉢山は若い女性が立っているのに気づいた。白いシャツにグレーのタイトスカートのスーツを着ていた。鉢山は痴漢や盗難事件の被害届けを出しに来たのだろうと思った。

 しかし鉢山の予想とは違い、その女性は鉢山と上原に向かって姿勢を正し、敬礼した。そして大きな声で「須賀若葉警部補です!」と名乗った。

 鉢山と上原は一瞬立ち止まったが、鉢山は「先に行っていろ」と言って上原を車に向かわせた。

 そして鉢山は須賀に軽く敬礼を返し、そのまま立ち去ろうとした。

「今日から臨海署刑事課に配属になりました! よろしくお願いします!」

 須賀はすぐに続けて大きな声でそう言い、敬礼から直った。

「刑事課の鉢山だ」

 それだけ言って鉢山は再び立ち去ろうとした。

 すかさず須賀は「今から出動ですか。私も行きます!」と大きな声で言った。

 須賀が言い終わると同時に署の玄関先に上原が運転する覆面パトカーが停まった。

「鉢山さん」

 運転席の窓を開けながら上原が乗るように促された鉢山は、「仕方ねぇ、お前も乗れ」と言って車の助手席に回り、ドアを開けて乗った。

 「はい」と大声で返事した須賀は、すぐに車の後部座席のドアを開き、乗り込んだ。


(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る