優しいおとな

夏木

優しいおとな



 コロナによって、自粛生活が続いている中、どうお過ごしでしょうか?


 感染のリスクを減らすために、テレワークが推進され、人との接触を回避。学生は学校に行くこともままならない。

 

 新しい生活が始まる季節に、とんだ災難がやってきたものです。私も新社会人になりましたが、入社式や研修が全てなくなりました。



 街では、様々なお店が営業自粛になり、飲食店経営者や、店や給食に食品を提供している方などまでも、生活が困難になったという話を耳にします。



 そんな苦しい生活でも必死で生きているからこそ、読んでほしい本。

 桐野きりの夏生なつおさんの『優しいおとな』を紹介します。




 舞台は福祉制度が破綻した日本。

 制度が破綻しているので、満足に教育を受けられず、なんの知識もないまま独りで生活を送る孤独な少年イオン。

 彼は都会でサバイバル生活を送って生きてきました。

 そんな家も家族もないイオンを助けようと、「ストリートチルドレンを助ける会」のモガミが手を差し伸べます。


 しかし、その手を振り払って、ずっと慕っていた兄弟を探しに、渋谷を巡るイオン。

 次第に踏み入れるべきではない、アンダーグラウンドへと向かってしまいました。



 物語の中で出会う人たちは、みんな生きることに必死。

 男女関係なく、身を守り生きていくために集団行動する人もいれば、イオンのように単独で行動する人もいる。

 炊き出しがあれば、朝から並ぶし、大切なものは、鍵をかけて管理しなくちゃいけない。

 雨風をしのげて、体を休ませる場所を見つけるのも大変。

 どんな大変な生活でもイオンは必死になって兄弟を探します。



 初めは独りだったイオンは、地上と地下で様々な人と繋がり、今まで抱かなかった愛情を持つようになります。



 果たして物語の最後に待ち受けるのは、探し求めていた兄弟なのか、それとも――?






 私たちは、憲法で最低限の生活を送ることができるようになっています。

 しかしそれがなくなり、義務教育も受けない子供が路上で暮らす世界。


 ――もし、日本がこの物語のようになってしまったら?


 そんな可能性はゼロではないんじゃないかと考えさせられます。

 コロナに有効な対策も出ず、このまま蔓延するようなことになってしまえば、失業や学業の遅れ、経済損失……数多くの損失が生じるでしょう。


 大きな損失の結果、この物語のような世界になってしまうこともあるかもしれません。

 そんなの世界。


 読み始めたら、手も涙も止まらなくなります。ラストは必見です。

 ぜひ、手に取って読んでみてください。




 作中で兄弟は幼いイオンに、「おとな」について話しています。


 優しいか、優しくないか。どっちでもないか。

 子供である兄弟やイオンたちを、一番苦しめてくるのは「どっちつかずのおとな」だと。



 この作品は約10年前に出版されました。

 この本を初めて読んだとき、私はまだ中学生。

 当時はモガミのように、手を差し伸べる「優しいおとな」になりたいと思っていました。

 それが今、就職をして年齢的には「おとな」になりましたが、「優しいおとな」になれているかと問われると、頷くことはできません。むしろ、「どっちつかず」になっていると思います。




 日常を取り戻したとき、あなたは自分が困っている人に手を差し伸べられるような、「優しいおとな」であると胸をはって言えますか?

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