『初めての飲み会』その2

「注文きたよ!」


 アヤメ先輩が注文の肉を受け取り、テーブルに並べられた。


「待っていました。耕次! 肉大食い勝負だ!」

「望むところだ!」

「私も参戦するぜ!」

「いや待て」


 てるやん先輩がジッと僕ら一年と部長と副部長を眺める。


「ようし! お前ら一年、肉大食い勝負だ」

「ええええ!」


 一年全員揃って、衝撃でひっくり返そうになる。

 大介に至っては失神寸前だし。


「ちょっとそれは無理です!」


 僕の普通の抵抗。


「そもそも先輩と体の構造、人間として違います!」


 人間否定するメグさん。


「いつも先輩のことは、本当にしょうがなく、敢えて先輩として慕っている私でも、流石にそれには了承しかねます」


 今、ものすごい素が出たよ。リナさん。


「何か凄く嫌なことを言われた気がするがそれは置いといて、今回は一年生歓迎会だ! きちんとハンデつける。俺と耕次とエリは単体だ。一年は四人で一チーム、どうだ?」


 なるほど、一対一対一対四か。数字的には悪くない。


「お前ら二人も人チームで参戦な!」

『私たちも?』


 標的が部長と副部長にも広がる。二人揃って、目を丸くする。


「そりゃそうだろ。クラブの首領と参謀」

「耕ちゃんその響き、何か変なイメージつくから止めて」

「そうか」


 カスミ先輩が必死に止め、何かもったいなさそうに納得する耕次先輩。


「同じクラブ員なら、同じ試練を受けるべき」

「エリ。言葉が運動部」

「ああ」


 アヤメ先輩がエリ先輩の脇腹を肘っで突っつくと、女性らしい声をあげる。


 意外だ。


 カスミ先輩とアヤメ先輩は、互いに顔を見合わせて話し合う。

 暫くして、同意か妥協点を見つけたのか、一緒に首を縦に振る。


「わかった。参戦してあげる!」


 カスミ先輩が決意を新たに、奮然と立ち上がる。


「おお!」

「けど条件がある!」


 人差し指を立てる。


「私たち二人は一年生チームに入る。それでどう?」


 指を折り曲げて、条件を提示する。確かにこちらにはとても有利な条件だが、向こうが許可するとは思えないのだが。


「いいぜ!その方が燃えるぜ! 二人共問題ないな」

「構わん」

「はいよ!」


 快くその提案を承諾した。

 ものすごい自信だな。


「ちなみに最下位の罰ゲームもこっちで提案してもいいかな」

「おう。いいぜ」


 ノリノリのてるやん先輩は、何が来ても受け止める状態だ。


「今日の会が終わるまで、最下位は一位と話すとき、末尾に『にゃん』と付ける」

「……う、うわ」


 僕と、大介は、地味な恐怖を感じに、悲鳴に似た声をあげる。

 自分が言っている所を想像すると、自分で自分に吐きそうになる。

言われた相手もこれは流石に否定すると思いきや……。


「お、おう。いいぜ」


 許可した!

 いや、絶対に今、勢いで言ったけど、一瞬嫌な顔した。

 隣の耕次先輩は、バツの悪い表情だし。

 エリさんは……、破顔一笑している。


「じゃあ開始!」


 カスミ先輩の号令で、一斉にグループ別に分かれた。

 一年のテーブルに、二人が椅子を持ってきて座る。

 さっとアヤメ先輩が肉を金網に並べていく。


「ほら、カゲル君、大介君、食べる!」


 アヤメ先輩は焼けた肉を素早く皿に乗せて、二人の前に置く。


「でも相手は一人で、こっちは六人いるから、普通に食べても大丈夫じゃないですか?」


 と、ちょっとした疑問を口にするがそれが間違いだとすぐにわかった。


「はい次!」


 例の三人組は別々に座って、一人で焼いているが、三人の手元の皿はもう空っぽだった。もう追加の注文が入った。


「何ですか? あれは」

「あの三人の腹は異常なの。六対一でやっと五分なの。だから早く食べる!」


 アヤメ先輩がもの凄く必死になっている。

 皿の肉全部焼き乗せると、すぐさま次の注文を追加する。


「何か燃えてきたね。リナ!」


 メグさんがやる気スイッチが入ったのか、ガツガツ食べ始めた。


「確かに負けたくはない。あと『ニャン』は言いたくない」


 リナさんは敵愾心で食べている。


「あんまり胃大きくないから、そんなに戦力ならないですけど」


 大介は、身を縮めながらも、モソモソと肉を食べていた。


「ごめんね。いきなり付き合わせて、まあ食べ放題だから食べないと損だよ」


 カスミ先輩も、美味しそうに肉を放ばりながらも、着々肉を食べていた。


 乗り遅れているのが僕だけだった。

 仕方ない。「にゃん」だけは絶対にゴメンだ。


「分かりました。限界まで食べます!」


 僕は初めて胃の限界に挑戦したのであった。

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