逃亡兵のサイボーグさんが理不尽な日々に愚痴る経緯
がりごーり
序
「ダックさんっ、後方から魔物のリンクがっ」
「すまん、今、手が離せん。とりあえず防御フィールドで回避してくれ!」
「りょりょりょっ、了解でっす」
俺の名はバーダック・ウェストウッド。
元海兵の、現在は不法流民だ。
最近は現地民の一企業と縁ができて、彼等の仕事を手伝うことで、一応は文化人的な生活ができている。
「っと? おい、ユリコ。右のミニカノンの弾切れだ!」
「魔素パックのチャージ切れです。リロードして別のパックに切り替えてくださーいっ」
「どーやって!?」
「『リロード』って叫ぶに決まってるでしょ、常識ですよ常識っ」
「知るかそんな常識!」
文句を言いつつも言われたとおりにすると――
『音声認証ができませんでした。もう一度はっきりとした発音でお試しください』
――とのクレームが。
「おいっ、“reload”っ言ったが反応しないぞ!」
『音声認証ができませんでした。もう一……』
「発音がネイティブ過ぎですー。日本語仕様なんですからもっと植民地英語風にぃぃぃぃっ、キャー、シールドがピキっていったーーー!」
「ユーリコ、おまっ、人種差別団体に訴えられるぞ!」
「そんなこと知りませーん、とにかくそういう仕様なんですー」
「っち、メイドインジャパンも地に落ちたなあっ」
ともかく何度か下手な発音を繰り返して、ようやっとリロードが成功した。
なら後は、撃つだけだ。
右の手のひらを正面の地面付近にのたうつスライムへ向け、発射の意思をこめる。
筋電位かなんか知らんが、それがトリガーとなって右腕の義肢に内蔵された魔砲機構が起動し、謎の散弾を発射する。
それはスライムの粘体の体と魔核と呼ばれる急所を一纏めに捉え、粉々に飛散させる。
たった一発で、あのスライムが死んだ。
この世界にダンジョン突如発生し、突入した海兵隊の弾幕に無傷だったあのスライムが、たった一発でだ。
「畜生、一年前にこれがあったら……」
……仲間たちも無残に死なずに済んだのに。と言葉を続けようとしたのだが。
「ダックさーん、もうこっち限界です。ゴブリンですっ、ゾンビ犬ですっ、私犯されちゃいますー、食べられちゃいますから速くー、はりぃっ、はりーっ」
必死だがどこか間抜け臭を醸す黄色い声で沈む気分ごと霧散させられた。
「っだっ、こっちもう二体いるから、それまで待て!」
「もう無理ですからぁーーーっ」
ダンジョンで戦うのは、昔も今も必死だ。
必死なんだが……
なんでこう、今の状況はギャグの雰囲気が充満してんだか。
ともかく、残り二体のスライムも破裂させて後方の敵へと対応を開始する。
見ればユリコの今にも殺られそうな言葉とは裏腹に、防御フィールドの破損反応にはまだ余裕のあるのが見てとれた。
丁度良いので、そのままユリコを盾代わりに魔物の各個撃破だ。
ゴブリンやゾンビ犬にもスライム同様に魔核という急所があるが、極論、動物型の魔物は頭を潰せば大概死ぬ。
正直、スライムよりもよっぽど楽な相手だ。
「うん、いいな。撃って死ぬ奴は良いやつだ」
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