第74話

「なに、してるのか……聞いてもいいか?」


 こちらは、顔が引きつるというより、ある一点をチラ見してしまったばかりに必死に目をそらす叶恵の言葉である。


「いや、あのっ、えっ、あっ、と……そ、そのー……」


 一方こちら、瞳にはお手本のような綺麗なグルグルができあがった春来聖女様である。顔の赤さ?ボム兵なんて目ではない。もはや某トゲ甲羅の王様が吐く火の玉が如き赤さである。


「ま、枕を……抱えてました……」


 俯きながらプルプルと震える春来である。傍から見れば美少女が美少女の部屋に突撃したら恥ずかしいところを見てしまったという構図。実際は男子高校生が自室に戻ったらクラスメイトの美少女が自分の枕を抱えて、というかしっかりと抱き締めて顔を赤くしているという構図。


 …………しかも先程叶恵が顔を逸らした光景。


 何がとは言わない。何がとは言わないが、押しつぶされてる光景は圧巻でした(by数日後の叶恵)


「あのっ!」


 凍りついて返事がない叶恵に大声で春来が声をかける。


「お!?おう……なんだ?枕なら、うん。もういいから。そのまま持って行っていいから」


 こちらも目がグルグルしているようである。自分で何を言っているのかがよくわかっていないようである。


「ふぇ?い、いいんです、か?」


 戸惑いの春来である。そりゃ自分の枕を持って行っていいからと言われれば混乱もする。が、しかし、


「いや、だってさ……俺、その枕で今日寝れる気しないんだよな……」


 うわぁ、顔真っ赤……ゴホンッ。まぁ、変なところはあるものの叶恵とて男子高校生。美少女が抱きしめた枕で安眠なぞできるはずもないのである。


「そ、そうですか……そうですよね……私、うん……はぁ……」


「なんで一人で気分下がっていってんだよ!?後、寝転ばれたら俺今日ほんとに寝れないから───!!」


 叶恵、魂の叫び(?)である。


 そう、先程の叶恵の発言がまさか自分を意識してのものだとは露ほども思わなかったネガティブ聖女様は、勝手に落ち込んで枕を抱えたまま叶恵のベッドに横になろうとした。


 が、さすがに勘弁してくれと叶恵が春来を倒れないように支える。


 どういう状況になるか。


 以下の通りである。


 *


 ◆叶恵視点


 春来の顔が近い。物凄く近い。流石は学年一の美少女だと思わざる得ないが、今の状況はやばい。


 なまじ中途半端になったせいか、春来の背中を支えるのは俺の左手で、右手が春来の後頭部に回ってる。


 ……キスが出来そうな距離。


 顔が熱い。


 春来の吐息が俺の頬を撫でる。


 どことなく甘い香りが鼻腔を刺激し、若干理性が揺らぎかける。


 心臓の動きは勝手に早まって、痛くなるくらいの速度になってる。


 極度の緊張感。


 気を抜けば倒れそうな危うい体勢。


 …………流石にベッドに寝転がられると俺が寝れないと思っての行動だったのに……完全に裏目に出てないか!?


 *


 ◆春来視点


 か、叶恵さんの顔が、ち、近いっ。


 可愛いなぁ、なんて思う余裕もないですっ。


 私の顔って今、焼けてないですよね?物凄く熱いんです。夏の暑さではありません。


 しかも、背中と頭を支えられて、その部分から叶恵さんの体温が……!


 うぅ……。


 もうこれ、心臓が破裂しちゃいそうなくらいですっ。


 よく見れば叶恵さんの顔が真っ赤ですし、きっと私も同じでしょう。


 でもそれ以上に、私のほっぺたにあってる叶恵さんの呼吸と髪の毛をどうにかしてくださいっ!くすぐったくて気持ちが良くて、思考が溶けてしまいそうなんですっ!




 …………はぁ、顔が近づくって、凄いです。

 ずっとこのままでいたいって、思っちゃうんです。

 私のは、やっぱり、、ですよね?


 誤魔化すも何も、どうしようもないんです。


 止まらない、止まれない。




 目の前のこの人が、





 独りよがり?どうでもいいです、そんなことは。


 叶恵さんは既に自分はと公言しています。


 でも、嫌です。


 じゃあ、私の心はどこに向かえばいいのですか?


 ねぇ、叶恵さん。


 あなたは、私をどう思ってくれてるのですか?


 ………頭の中で聞いても、目の前の叶恵さんが答えてくれるはずもないですが……。


 あぁ、この少しだけの、ほんの十センチ程の隙間が、もどかしくて仕方が無いのに、自覚したばかりの私では、前に進むことはできないのです。


 ……ねぇ、安姫さん。私は、絶対にこの位置を守ります。




 一番近くでこの人の顔を見つめることができる、この位置を。




 だから、




「ありがとう、ございます……」


「っ!おう……すまん。つい、手が」


 今は、いえ、今は、


「枕、お返ししますね?」


「え゛……」


「ふふっ、気にしたら負け、ですよ?」


 真っ赤な顔で、締まりがなくて、でも、可愛くて格好いい、この人と、


「はぁ〜、了解。んじゃ、とりあえずは叶波の部屋に行ってもらう……か?」


「…………」


「……春来?」


「……添い寝、してくれませんか?


 もっと、一緒に。









 ≡≡≡≡≡≡≡

 ……………なんで予定に無いことばっかりするんですかねこの子達は!?


 雰囲気ぶち壊しで申し訳ありませんが、弁解させてください。


 元々の予定ではこのお泊まりイベントはおろか、原田一家プラス雫が伊吹乃家に来る予定もなかったんですよ。なんならもうすぐ二章クライマックス行きたいなぁ、とか思う話数なんですよ!一章の二の舞になってますねこれは!


 どうしろと。


 奴ら叶恵と春来は一体何してくれてんだと。

 予定通りに進ませてくれ。これじゃ君らのラブコメだけになってしまう。


 違うんですよ。君らはね?もっと全体的に関わるはずなんですよ!


 …………………もういいよ、本当。


 はぁ……


 ※このままいけば、ワンチャンタイトル変更が有り得てしまいます。


 そうなってしまった場合は近況ノートで報告とさせていただきますので、宜しくお願いします。




 ……マジでどうしよう。

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