第72話
七月三十一日午後二時。
◆叶恵視点
………。
なんか、聞き覚えのある声が聞こえた気がしたんだが……?
俺が戸惑っている間に、玄関の閉まる音と、足音が三つ。
カチャリとリビングのドアを開けて入ってきたのは、
「……なんで春来がいるんだ?」
「い、いえ……その……」
そしてなんで顔が赤い?
「お兄?気にしたら負けって言葉、知ってる?」
「叶波……逆に聞こう。お前は俺が友達の家に行く時にわざわざ同伴するか?」
愚妹が馬鹿なことを言ってるが正論で返す。
「するけど?」
正論を堂々と返してくるな!?
「あはは〜、お兄について行かないわけないじゃん?ねぇ、楓ちゃんもお姉ちゃんについて行くよね?」
「当然」
「「当然じゃない!」」
春来と同時に突っ込む。
が、しかし、
「へぇー、息ぴったりで……にしし」
「仲良いね〜……くふふ」
「気持ち悪ぃ笑い方してんじゃねぇよ」
なんだよ「にしし」とか「くふふ」って。
「で?話逸れたけど、なんで春来がいるんだ?」
「そりゃ私が叶波ちゃんと遊ぶからでっす!」
「お前の話は聞いてないんだがなぁ?」
ちょいとイラッと来るぜ?
「だって私も春来だもーん」
そう言うと叶波と顔を見合わせて「ねぇーっ」と言ってる楓ちゃん……もうなんなのマジで。信じられるか?こいつらこれで受験生だぞ?
「はぁ……で、春き……」
「はぁーい!」
「もうお前ら二人とっとと部屋行って勉強して来い!」
「「えぇー」」
ほんっとに仲良しだなっ!おかげでこっちはイライラしてしょうがねぇよ!
「叶恵?それくらいにしときなさい。折角来てくれてるんだから」
「…………はい」
「宜しい」
美姫さんに言われたら下がるしかないんだよな……本当、頭が上がらない。
「ほら、あなた達も。ね?どうせなら一緒にご飯食べる?」
……ん?
「美姫さん?俺、もう食ったんですけど」
そう言った俺をキョトンと見つめる美姫さん。あれ?今、二時だよな?原田家来たの、一時半位だよな?
「何言ってるの?晩御飯よ?」
あっさりとそう言ってのける美姫さん。その横で宏和さんが苦笑い。和之と樫屋さんはソファでイチャイチャ……ご馳走様です。
「えっ!今日夜ご飯一緒!?やった!」
叶波がはしゃいでいるが、俺からすれば……
「えっ?えっ?」
「さ、そこの可愛い子と叶恵の関係でも聴こうかしら♪」
語尾に音符マーク付くくらい楽しそうな美姫さんの言及が怖いです。
後、春来姉妹よ。
その大っきいリュックサックは何?
*
「へぇー!膝枕っ!しかも頭撫でられた!?へぇー!へぇーー!!」
「美姫さん勘弁して下さい……」
「あ、あと、その後に……」
「春来!?もうやめてくれねぇかな!?俺が死ぬ!」
今は中間テスト最終日の公園の話だ。
俺は抵抗したよ!恥ずかしいからなっ!でもな!
「寂しくなって伊吹乃さんに後ろから……その」
「無視ですかそうですか!俺はどうすりゃ良いんだよ!」
こんなに声張り上げてるの久しぶりだなぁ……でも、な?春来の奴、律儀に全部話そうとするの。もう死にそうなんだよ。さっきから顔が熱くて仕方ない。
「叶恵……」
宏和さんのドンマイと言わんばかりの視線が痛い……
「叶恵っ!やるじゃない!和之はよく聞いてたけど、なんであなたに春が来ないのかと心配だったけど……うんうん、いい人と出会えて何より!」
「美姫さん、違う。そういうんじゃない」
もうなんか……突っ込む気力すら無くなってきた。さっきの宏和さんの視線が何気にダメージでかかった。
「ふぅ……ふふふっ、いい話を聞けたわ。ありがとね、紅葉ちゃん」
「い、いえっ!そんなっ!」
というか今日ずっと春来が緊張してんだけど……なんで?
*
午後七時。
話が終わった段階で六時を回っていたことに驚愕した俺が速攻で近所のスーパーに買い物に行き、現在台所で、
「頑張りましょう!」
ふんすと気合いを入れてる春来と一緒に料理をしていた。
なんでこういう時だけ美姫さん引き下がるんだよ……そして春来。なんでお前は志願してきたよ?
ちくしょう!イチャイチャしてる二人組見に行きてぇ!癒しをくれ!癒しを!
「伊吹乃さん?だ、大丈夫ですか?」
「ん?お、おう……」
覗き込んで来る春来に少し驚く。
じゃがいもを切っていた包丁から手を離して顔を触ると、引きつっていた。なるほど、こりゃ確かに心配されるな。
「すまん。ちょっと考え事してた」
「あ、そんな謝られても……包丁が機械みたいに動いてましたし」
確かにじゃがいも結構な数あったけどいつの間に殆ど切れてるな。さっさと残りも切ってと。……人参がねぇ。
「春来、人参そっちにある?」
「はい。これでいいですか?」
差し出された人参を受け取ろうとして、指先が当たる。
「ひゃっ!」
バッと手を引く春来。後ろには開けっ放しになっている調理器具の棚。
って!このままじゃ角に頭ぶつかるぞ!?
「っ!!」
咄嗟に手を伸ばす。うちのキッチンはそう広くないし、別段離れていた訳でもない。
あっさりと届いた手で春来をグイッと引っ張る。
そしてそのまま─────
「…………ふぇ?」
すっぽりと俺の腕の中に収まった彼女は、俺よりも少しだけ背が高いはずなのに、守りたいと、思ってしまった。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
やばい、肝心のメイン二人が全然出てこない。ごめんなさい。
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