第70話

 七月三十一日午前九時


『それでは、今年の一学期終業式を始めます。はいっ、拍手拍手〜』


「……誰か黒笠と変わって。なんであんなに自由奔放なんだ……」


 終業式の入りがそれでいいのか生徒会。会長が頭を抱えている。そしてその横で副会長が笑顔である。


「私が行ってきますっ」


 そこで元気に手を上げるのは雑務、葛城。庶務ではない。雑務である。


「よろしくね。葛城さん」


 笑顔で今度は会長の頭を撫で始める副会長。一応今終業式なんですが?


「……………なに?」


「何が「なに?」かは知らないが少なくとも俺ではないと言っておこうか」


 副会長のとばっちりをくらいかける書記の白蓮。綺麗に躱す。半年以上生徒会長と副会長の煽りを食らっるだけあってさすがである。


『あー、あー。うん。大丈夫かな?皆さん、これより、一学期終業式を始めます。まずは校長先生からのお話です』


 きっちりと役目を果たした葛城だが、マイクを校長に渡して階段を降りようとしたところで、ズデッと。


「椎名!?」


 白蓮さん、直行である。急いで抱き起こせば涙目で額を抑える葛城が。


(可愛っ………っと、今はそれどころじゃない)


 自分の彼女の涙目で一瞬意識が吹き飛びかけるもそこは通常時はしっかり者の白蓮。しっかりとで「すいません!ちょっと通してください!」と体育館にぎゅうぎゅう詰めにされている生徒を掻き分けていく。


 当然、


「うわぁお、王子様」


「嫉妬すらわかねぇわ。あれが王子様の風格」


「王子様カッコよすぎ。惚れる。ほら見てあれっ!葛城ちゃん顔真っ赤!」


「おー、ボム兵かな?」


「爆発寸前じゃねぇか」


 こうなる。公衆の面前で思いっきりお姫様抱っこされている葛城は顔が真っ赤である。ぶっちゃけボム兵でも足りないレベルである。


 タチの悪いことに急いでいる王子様(笑)の白蓮はそれに気づかない。


 暖かい目で道を開ける生徒たちに「ありがとう」と頭を軽く下げながらその場を去っていった。


 その場がざわつくこと数分。


『ゴホンッ』


 マイク越しの咳払いに静まり返る。


『ふぅ、いいかな?』


 体育館内を壇上から見回した校長は鷹揚に頷いてみせると、


『……いいのだな?』


 ……繰り返す必要はあるのだろうか?


 *


 一時間半後。


「死ぬ……死にましゅ……うぅ〜〜!」


 一年四組の教室にて。


 ホームルームが終わったあとに戻ってきた葛城が悶えている様子を皆が微笑みを浮かべて見守っている最中である。幸い怪我もなく、直ぐに戻っていいと言われた葛城だったが、


『良かった……!』


 と白蓮に抱き着かれ、ショートしたのである。結果、戻ってきてもこの始末。


 初登場時の顔が死んでいた白蓮だが、普段はあんな感じである。先程は(笑)などと表したが、割と真面目に天然王子である。


「ふふふ〜、葛城さんは可愛いですね〜」


 さて、そんなお姫様に近づく魔王倉持である。

 細い糸目がいつも以上に弧を描いているように見えるのは気のせいか。


「うぅっ……優奈ちゃんは退散してっ!」


「嫌ですよ〜?こんなに可愛い葛城ちゃん獲物を逃がすわけないじゃないですか〜」


「そこはかとなく発言が不穏だよっ!?」


 怯えた様に椅子から立ち上がり後退る葛城お姫様にまるで某トゲトゲのでっかい甲羅を背負った亀の王様のごとく迫る倉持魔王


 構図がカオスである。赤い配管工がいないだけましであるとも言えるが。


「もうやだぁ」


「酷いですね〜。まだ何もしてないじゃないですか〜」


「ほら、まだって言った!なにかする気満々じゃんかっ!雨音ちゃん助けて!」


 堪らず金木に助けを求める葛城である。

 しかし、金木 雨音という少女は基本普通だが楽しいことが好きな少女である。つまり、


「んー、やだ★」


 悪意のある黒星を語尾につけての拒否である。傍観が一番楽しいポジションだと分かっているからこそサラッと酷いことを言ってのけるのである。茶番だとわかっているからとも言えるが。


「えぇー。ねぇ、優奈ちゃん?話そう?話せばわかるよ?ね?」


「ふふふ〜、私は最初から弄る気しかないっ!?…」


 倉持魔王に制裁チョップが入った!ダメージはない!


「何してんだお前は」


 呆れ顔で立っているのは青野。それはもう目が半目になる位には呆れ顔である。


「ふへぇ〜。痛くないように手加減してくれたのは嬉しいですけど〜、心が痛いですよ〜?」


 風船のように頬を膨らませて抗議する倉持魔王。地味に目が薄らと開いている。本人的にはかなり真面目な模様。


「あれー?青野?なんでいるの?そっちの担任、ホームルーム長いでしょ?」


 頭に一つ疑問符を浮かべる金木が青野に問う。


「その長いホームルームが終わる程度には長いこと茶番続けてただけだろ。時間見ろ」


 淡々と青野は言う。

 実際、現在時刻は十一時半である。サラッと退院していた一年五組の担任、木下 陽斗はると二十四歳は、とにかく話好きなのである。


「うちの担任の彼女自慢の惚気話で時間が過ぎるわ過ぎるわで、伊吹乃以外は全員げんなりだよ」


「なんであの人は無事だったの?超人?」


「いんや、惚気話が主食の悪魔かなんかだろ。ことある事におじょ、王小路と喧嘩したり、そこの魔王と喧嘩したりしてるしな」


 肩をすくめる青野である。和之のような超人イケメンアイドル野郎ならまだしも、青野がやってもコミカルなだけである。ガタイが言い分様にはなっているが。


「あ、和之さん!」


「うん、雫。帰ろうか」


「はいっ!」


「「「「……………………」」」」


 青野、倉持、葛城、金木の視線の先では和之と雫が既にイチャイチャしていた。


「今日はどこか寄り道しますか?」


「そうだなぁ……せっかくだし母さんと父さんも呼んで久しぶりに叶恵の家に突撃しようかなぁ」


「そ、それは私もいていいんですか?」


「良いよ良いよ。むしろ叶恵なら大歓迎だと思うし」


「あぁ……なるほど」


 この時教室内の全員が思った。


(((((((親に紹介済みですとっ!?)))))))


 と。


 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


 次回、突撃!伊吹乃家。


 ここからあとがき

 まぁ、ネタですよね。最近一章の二人がイチャイチャしすぎな気がする作者ですはい。二章のメイン(のはず)な二人は最近二人行動が多いとだけ言っておきましょう。


 追記

 次回は会話率が異常です。誰が誰かの把握が難しいと思われますので、作者の気が向いたら誰のセリフか横に入れるかもしれません。

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