第53話

 六月十七日水曜日午前十時。


 絶望の表情で「もういい」と某吉本新喜劇のあの人みたいな言葉を繰り返していた叶恵だが、十分ほど前にようやく立ち直りに成功。ただし、


「明日明後日は学校休むか」


「ダメですよ!?」


 開き直る方向ではあったが……春来がいればなんとかなる気も……


「ふっ、春来。お前は明日俺がボロ雑巾みたくなっていいと、そういう事か?」


「いっ、いえ、そういう、訳では──」


「よし、休む」


「だからダメですって!」


「無理無理無理。俺今頃学校内のSNSでやばい事になってるからな?明日学校行ったら面倒事確定だぞ?俺はまだ死にたくない」


「死にませんっ!」


「だから休む!」


「ダメです!」


「やだ!」


「小学生ですかっ!?」


「こんななりでも高一だよっ!」


「なら言い訳したりせずに諦めて明日学校に行きましょう!」


「やだ!」


 ………………………………母子かな?

 少なくとも傍から見れば完全に母親が学校サボろうとしてる娘に怒っている光景である。いや、身長にほとんど差がない上に一応は春来の方が背が高いためか姉妹にも見える。


 どちらにせよ年下のわがままに付き合う年上の構図である。


 叶恵が情けなくて仕方ない。


「お前も明日散々だぞ!これ見てみろ!」


「え?……ってなんですかこれっ!」


「だから言ってんだろ!?」


 叶恵がみせたのは件のSNS。基本的には行事関係が一番上に来るのだが、


 -----


 激写!!我が校一年の聖女と雪女に扮した恋相部部長のデート!


(蕎麦屋で一緒に食べてる写真)


 -----


 プライバシーもへったくれもない。


 しっかりと両者の顔が写っている。しかし叶恵は雪女モードでは無い。


 春来が膝から崩れ落ちる。


「休みましょう伊吹乃さん」


「おう」


 ピコンッピコンッ


「「?」」


 二人のスマホから同時にLineの通知。二人が内容を確認。


『叶恵、明日休んだら木鄉で一食と熊軒クレープ僕が好きなのひとつ奢りね』


『紅葉、明日休んだら一限ほっぽってでも連れていくわよ』


「「……………」」


 上が和之、下が王小路である。和之に関しては情け容赦が一切ない。もしも和之の注文通りに叶恵が奢らされれば、喫茶『木鄉』のランチセット千三百円(税別)に、熊軒クレープの新作ミルフィーユクレープ六百円(税別)となる。学生が奢りとして出すには少々きついと思われる。


「さすがにきつすぎるだろ……」


「夢乃さん、授業はちゃんと出てください……」


「「ちゃんと行く(行きます)から」」


 渋々としんみりが五分五分位の表情になった二人であった。


 *


 ◆とあるチャットにて


 ──三年の亀さん、三年の兎さんが入室しました


 三年の亀:聖女サマー!可愛い、結婚して!


 三年の兎:↑馬鹿だろ。お相手見ろ、諦めろ


 三年の亀:憧れくらい許して!俺青春してないから!


 三年の兎:お前は四六時中ラノベ読んでたからだろ


 ──三年の鶴さんが入室しました


 三年の鶴:そうだそうだ


 ──二年の狼さんが入室しました


 三年の亀:ごめんなさい反省してないから許して


 三年の鶴:↑おい


 三年の兎:↑おい


 三年の亀:↑お前らタイミング同時ww


 二年の狼:いやー、聖女様も可愛いけどお相手さん男子?


 三年の亀:さてはオメー閉会式で寝てたな?宣伝部門と女装部門で一位とってたやつだぞ?


 ──二年の虎さんと二年の象さんが入室しました


 二年の狼:えっ!マジっすか!やらかしたなー、なんで閉会式の時に集合無視したんだろ


 三年の兎:↑いやサボりで草


 二年の虎:むしろ女子であった方が萌えた件


 三年の亀:↑分かる


 三年の鶴:↑分かる


 三年の兎:↑分かる


 二年の狼:↑分かる


 二年の象:↑分かる


 二年の虎:↑被りすぎwwしかもさりげなく増えてるw


 二年の象:どうも、鼻が低い象です


 三年の亀:低いんかい!w


 二年の狼:流石は亀さんツッコミが鋭い


 三年の兎:亀が鋭いのはいかんでしょw


 ──一年の神さんが入室しました


 一年の神:どもー


 一年の神:皆さんちょいと良いですかい?


 三年の鶴:なんだいなんだいどうし短大


 三年の亀:↑変換しちまってるw


 二年の虎:www


 三年の兎:↑↑↑どうぞお進めくだせぇ


 二年の象:三年が一年にへりくだっているだゃと!?


 三年の兎:↑同様酷いww


 一年の神:進まないっす、動揺が同様ッスよ


 三年の兎:サーセン、あざます


 一年の神:まずこちらをどうぞ(´・ω・)っ(初日の屋上、夕方)


 二年の狼:綺麗だなー、どこそれ?今から行く


 一年の神:うちの高校ッスよこれ


 三年の鶴:嘘だ!俺はこんな綺麗な場所知らないっ!


 三年の亀:つーか屋上って基本空いてないはず


 一年の神:ここだけの話実はこれ開けたの聖女のお相手説が


 二年の虎:ぬぁにぃー!?


 三年の兎:動揺ww


 三年の亀:マジですか、ちょっと明日こいつの教室カチコミ行くんで除法おなしゃす


 三年の鶴:割り算してどうするw


 三年の亀:揚げ足取り勘弁。情報な情報


 一年の神:一年五組のやつっス。伊吹乃 叶恵ですね。


 三年の亀:あざ


 二年の象:同行しやすぜ兄貴


 三年の兎:俺も


 三年の鶴:俺も


 二年の狼:俺も


 二年の虎:俺も


 一年の神:あ、俺は気が向いたらなんで


 三年の亀:おけ、じゃ、俺は落ちる


 ──三年の亀さんが退室しました


 三年の鶴:俺らも落ちるかー


 三年の兎:そうだな。お疲れ様ー


 ──三年の鶴さん、三年の兎さんが退室しました


 二年の狼:んじゃ俺らも


 二年の象:おう


 二年の虎:ばいばーい


 ──二年の狼さん、二年の象さん、二年の虎さんが退室しました


 一年の神:挨拶する暇もなかったっす……


 ──一年の神さんが退室しました






 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡


 ああ……厄介事の予感が……(歓喜)

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