第42話
「バッカじゃないの!?」
翌朝、六月十五日月曜日午前六時二十分。
一人の女生徒の前で土下座する男子が一人、二人、三人……四に…………えー、和之を除いた全男子である。
叶恵含め、唐草・奈倉の二人以外は完全な巻き込まれである。叶恵はあの後普通に戻ろうした結果、唐草の叫び声で起きた女子達に勘違いされ、半自動的になんだなんだと教室から出てきた男子達としっかり鉢合わせ、これまたとばっちりで勘違いを食らったのである。
そして、こういう場において、男子の発言権など無に等しい。
「いや、だから、あれは唐草の叫び声が聞こえたからで」
「黙りなさい青野。あなた達のような記憶力すら定かでない愚図に発言権があると思わない事ね」
「……………お嬢、そりゃねぇよ……」
弁解しようとした青野を蟻でも見るかのように見下し、貶す王小路。さすがに酷い。
「おいおい、愚図はねぇだろ愚図は!」
落ち込んだ青野を見かねたか、一人の男子が立ち上がって抗議する。
「そうだそうだ!」
「俺英単語覚えるのは得意なんだぞ!」
「言い過ぎだー!」
「そうだそうだ!お前こそ黙ってろよ冤罪押し付けぺちゃんこお嬢様がよぉ!」
あ………馬鹿。
「………………は?」
額に青筋、目は据わり、纏う空気は南極の如し。
「誰がぺちゃんこですって……?」
目元が引き攣ってますね、やばいです。流石に踏んだ地雷がデカすぎましたねはい。
「お前だよ、王小路 夢乃さんよぉ!お高くとまりやががががががが!いだいいだいいだい!」
アイアンクロー炸裂。メリメリと頭から音がしている。怖すぎて誰も何も言えない。
「あら、偉大だなんて、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
((((((((絶対違う!))))))))
男子生徒一同、心の叫びである。しかし目の前の惨劇が恐ろしすぎて声が出ない。しかも一部の女子までもがドン引きである。楽しそうなのは楓のみ。
「そんくらいにしといてやれよ」
だがしかしヒーロー見参。
和之では無い。
「何、青野?なにか文句でも?私は今不埒者共に対する公開処刑と見せしめを行っているのだけれど」
そう、青野である。
「だから冤罪だって言ってんだろ」
「証拠でもあるのかしら?」
冤罪だと言い張る青野に、ならば証拠を出せと、論より証拠だと勝ち誇った視線と口調で告げてくる。面倒極まりないとはよく言ったものである。
「あるぜ」
「なっ………!」
しかしながら今回は青野に軍配が上がった模様。
教室の隅に移動し、あるものを回収した青野が手に持っていたのは、
「スマホ?」
「おう、アホ共が出た時にとばっちり食らうのはゴメンだったからな。証拠用意すりゃいいんだろ?ほら、安心しろよ。充電なら動画撮ってる最中含めてずっと充電してたからな。百パーセントだ」
男子一同が青野を拝む。唐草、奈倉は青ざめる。なんせ主犯である。しかもずっと撮られていたというのであれば、一回目に二人で行った時の映像もあるはずである。更には叶恵を無理やり引き込んだことも分かるだろう。
「それじゃ再生っと」
そんな二人にとって、その動画の再生は酸素のない火事場のドアを開けるも同義。
『『『………………』』』
「ひっ!ちょちょちょ、ちょいまち!」
動画が流れ、女子の目から光が徐々に消えて行くなか、唐草が悪あがきに出る。
「へぇ、今更何を言おうってのぉ?」
普段の軽い雰囲気が消え、仁王立ちしている井藤が正座中の唐草を見下す。普段からは全くもって考えられないほどの冷たい視線である。
「俺らがアホだったのは認めよう!あぁ、そうだとも!確かに俺と奈倉は覗きに行って見事に楓ちゃんの返り討ちにあった!」
「名前で呼ばないでくださいド変態」
「がふっ!ぐっ、そ、それはそれとしてだ!つい一昨日にできたばかりのリア充の夜を知りたくないか!」
「「「「「「「「はっ?」」」」」」」」
さて、ここで問題です。
親友のプライバシーを侵害しようとしているクラスメイトに、彼が黙っているでしょうか?
答えは以下。
「そう、昨日俺と伊吹乃はここの真下の音楽室に行ったんだ!そこで見たのは………」
「とりあえず一回死ね」
「へっ?」
熱弁を振るおうとした唐草の背後にゆらりと立った叶恵は唐草の腕を背中で固める。完璧な極まり具合である。無理に動かそうとすれば方が外れること請け合い。そして皆さん覚えているだろうか。
叶恵はキレ症であるということを。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!??」
痛すぎて声も出ない唐草である。流石に自業自得で、弁解の余地すらない。幸いだったのは当の和之がまだその音楽室から戻ってきていないことであろうか。
ちなみに件の二人はまだすやすやと寝ているため、この騒ぎを知らない。
「なぁ、流石にそりゃダメだろうよ。お前、あれか?倫理観とか捨てたのか?」
無表情で叶恵が語る。どこからどう見ても、ブチ切れている。
なんだかんだと自身も超ハイスペックな叶恵。そんな叶恵からの圧倒的な怒り。
「……………」
「おい、なんか言えっ……………て、何寝てやがる」
(((((気絶してるだけだからその位にしてあげてー!)))))
クラス全員の心の叫びが通じたか、「ちっ、しゃぁねぇ。適当にほっとくか」と、片手で唐草を机の上に載せ、その机を面積の殆どがセットで埋め尽くされている教室の隅に動かす。
それで気が済んだのか、クラスメイトを振り返り、
「良し、プライバシー侵害のアホは寝た。全員今の唐草の発言は忘れるように」
ニッコリ笑顔でそう言った。
全員が全力で首を縦に振ったのは言うまでもないだろう。
*
「ふあぁ〜……あれ?みんな、どうしたの?何かあった?」
それから数分後。
欠伸をしながら教室に入ってきた和之から軽く目をそらす一同。困惑の和之である。
「おう、おはよう」
「あ、叶恵。うん、おはよう。で、これは何があったの?」
普通に挨拶したのは叶恵だけである。よって必然的に和之は叶恵に事情を聞きに行く。
「あぁ〜、まぁ、云々かんぬんエトセトラ色々とあってだな」
「ちょっと待って!何今の!?その部分を聞きたいんだけど!」
意味不明な言葉を使った叶恵に和之が思わずツッコミを入れる。
「あぁ、間違えた。かくかくしかじか」
「そうじゃなくてっ!」
惚けづらで誤魔化そうとする叶恵である。
「はぁ、うん、もういいよ。何となく分かったから」
何故分かる。
「おっ、そうかそうか。OK、安心しろよ。元凶はあっちで伸びてるから
「なんで中国語なの」
いつもよりテンション高めの叶恵に和之は苦笑い。
「それに」と、叶恵が続ける。
「帰りにちゃんと説明すっから。すまんが今日は彼女さんとは別でよろ……いや、別に一緒でもいいか」
「あはは……ごめんね?気を遣わせちゃって」
「いいって。アフターケア含めて俺の仕事」
「そうだね……最終日も、頑張ろっか」
「おうよ」
準備しながらの会話。その間に叶恵は再びの雪女モード、和之は吸血鬼モードになる。
「おーい!そこ美形二人!今日も頼むぞ!」
セットの裏(表)から顔を出した青野(ちなみに今日の彼は男のフランケンシュタインである)が親指を立てて手を突き出す。
それを見た二人は、
「「了解!」」
と、笑顔で同じポーズを返した。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
エンディング感が凄い……違いますからね?二章始まったばかりですから!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます