第30話
六月十三日土曜日午前八時三十五分。
体育館にて。
『諸君、準備はいいか!』
『『『『『はい!!!』』』』』
壇上に立つは中年の教頭、
その視線の先には星華学園全生徒、計千八十名。および、教員、計五十名。
『本日私から告げることは一つ!今日は前夜祭!生徒諸君は犯罪にならない範囲で存分にハメをはずしたまえ!これを私からの開催の宣言とする!……では、校長先生。宜しくお願いします』
教頭とはそれでいいのかとツッコミを入れたい宣言を出した教頭は、校長へとマイクを渡す。
館内の空気は既に高揚感で満たされている。それでもまだ静かなのは、普段の素行が良いからであろう。
さて、続いて壇上に立つは校長兼理事長、
白髪ばかりの頭、厳つい顔。厳格に引き締められた口が開き、
『今日を存分に楽しみ、明日明後日の本番、頑張りたまえ。期待している』
そして『解散』、と口にすると、
『『『『『『うぉぉぉーーーー!!!』』』』』』
歓声。
『はい、皆さん押さない押さない!生徒の皆さんはここから便宜上生徒会の指示下に入ります!まずは中等部二年の一組から順番に体育館を出てください!開始時刻は九時半です!落ち着いて!ねぇ、落ち着いてってば!……会長〜〜!』
校長が降りると同時に控えていた生徒会の生徒がマイクを握り生徒達へと指示を出す…………はず、なのだが、
『皆さ〜ん!ちょっとぉ!指示に従って下さ〜い!』
腕に生徒会の腕章をつけた生徒が泣き顔で指示を出すも、テンションが上がりすぎた生徒達には届かない。
さて、唐突ですが、問題です。
Q.この場合、指示を出す際に最も効果を発揮できる人は誰でしょう。
A.皆さん、おわかりですよね(笑)
この人である。
「てめぇらぁ!!指示にゃあ、従いやがれぇ!!!」
生徒たちの大喧騒の中、それでも余裕で体育館中に行き渡る野太い声。生徒の敵。ラスボス。それ即ち、
「後三秒で静かにならねぇ奴が一人でもいたら強制的に中止にするぞぉ!!!」
『『『『……………』』』』
高野である。
流石と言うかなんというか、相も変わらず教師としてそれはどうなのかという発言である。生徒に対して情け容赦が一切ない。
「おい」
『ひゃい!』
そしてそんな高野に声をかけられブルブル震えるのも仕方がないと思うのである。
「残念だが、お前にはこの大量のアホ共に対抗するこたぁできねぇみたいだな」
「す、すいません!」
「いや、いい。謝るな。お前は頑張った。だがな」
そこで言葉を切り、生徒の一人を睨めつける。
「てめぇの部下のSOSすら無視するような愚図が生徒会長で本当に良いのか?会計よ」
どうやら現在蛇に睨まれたカエルの如くスタンに陥っているのは生徒会長のよう。そして必死に指示を出していたのは会計らしい。
「い、いえっ!普段はまだしっかりしているので、大丈夫です!」
まだというあたり底が低いのバレたか。なんとも哀れであり自業自得な会長に南無。
「ふん、あいつは後で俺式・死伝課題をやる」
「え゛…………」
俺式・死伝課題とは、簡単に言えば、この学園に入学してからの全成績と照らし合わせて、最も苦手とする教科科目の課題を、ひたすら演習方式でやり続けるという悪魔も真っ青な地獄の課題フルコースである。
ついでにいえば、ネーミングは恐ろしく厨二に染まっているが本人は否定している。
曰く、
───────一番しっくり来ただけだ。と。
*
午前九時二十九分。一年五組の教室にて。
「さぁ、始まるわよ」
ほぼ真っ暗な上に中途半端な広さの教室中央で、王小路が声を出す。
お化け屋敷が日本のものであることを完全に忘れ去ったのだろう、その格好はまさかのマミーである。要は包帯グルグル巻き。
おかげでスレンダーな体格の線がくっきりと浮かび上がってしまっている。
ちなみに和之は吸血鬼。お化け屋敷とはなんだ?ハロウィンの間違いか?と思うかもしれないが、その一方で叶恵はまさかの雪女女装である。
バス事件でクラスの一部が素顔を拝んでしまったせいである。
だが、本人も別段満更でもなさそうである。
「はぁぁぁぁぁ〜〜………堪りません、この可愛さ」
しかしながら春来聖女様が壊れたように叶恵を抱きしめ続けているため一部男子が喀血、もしくは背後に百合の花を見たか鼻血を流しながら拝み始めるという事態に発展。一度は止めようかとも言われたが、
「んじゃあ、俺は出店回りつつここの宣伝でもすっかね」
「「「それだ!!」」」
との賛同の声は 拝んでいた一部の男子である。
彼が言うには、
「あれを知らないのはもはや恥」
「あれ見たらただのメイドとかどうでも良くなるわ。雪女だけど。男だけど」
「神がいるのに見ない奴がいるのか?」
との事である。一人狂信者がいた気がするが、気にしたら負けという偉大な言葉にあやかるが吉である。
『それではー、これより、星華学園第一学園祭前夜祭を開催します。本日は父兄の方々も誰もいらっしゃいません。生徒の皆さんも、教師の皆さんも、今日は無礼講で楽しみましょう!以上!堅苦しいの終わり!星祭、楽しむぞー!!』
なんとも楽しい開催の挨拶。それに答えるは全生徒の雄叫びである。
『『『『『『『『『『おお!』』』』』』』』』』
*
午前十時四十五分。
叶恵は雪女のコスプ……ゴホンッ、衣装のままで星祭を練り歩いていた。
なんと、一人である。
そして、あの叶恵が、女装をして歩いていればどうなるか。
当然、
「ねぇねぇ、あれ誰!?」
「めっちゃ綺麗なんですが誰ですあの人?」
「可愛ええ〜。おっかしいな。学校の可愛い女子は全員網羅してた筈なんだぐぁっ!」
「ばーかやってねぇで回るぞー」
「あれは……お姉様?」
「美しい?いやいや、あれはな、ふつくしいと言う」
「気持ち悪っ。でもまぁ分かる。美人すぎ。誰あれ」
こうなる。
みんなが初見の超絶美女がいるという噂が学園中を回るまで僅か一時間足らず。
叶恵のSAN値が極端な視線の嵐によってガリガリ削れる。
どこからどう見ても絶世の美女と例えられる雪女(笑)の叶恵である。残念ながら、断る余地もなく、また、ここまでの事態になることが想定できていなかった時点で叶恵はクラス連中に負けたのである。
「はぁ……」
思わず漏れた溜息にさえ恍惚とした表情で見つめる周囲の生徒達に、わかりやすい情報を提示する。
「皆様方、ワタクシにご注目していただき、大変有難く思うのですが、一の五の『東西混同化け物屋敷』にもワタクシのお仲間の方々がいらっしゃいます。きっとあなた方を楽しませてくれるでしょうから、ぜひ、お越しくださいませ」
即興である。
注目に耐えかねた叶恵が、元から女子っぽい声に軽く吐息を混ぜることで妖艶味のある声を作り、宣伝。
効果の程は、
「ちょっと!客多すぎ!」
「休憩入れないんですけどぉ!?」
「伊吹乃くんは一体何をしたの!?」
「あはは、何となく予想ついちゃうなー」
「原田ぁ!こっち手伝ってくれー!」
「あ、はいはーい」
「むぅ、カナちゃんと回りたかったです……」
「紅葉も働いて!あんたは主力の一人なんだから!」
「夢乃さん、人遣い荒くないですか?」
「そんなこと言ってる場合じゃないのよぉ!」
「ちょ!夢乃!?落ち着いて!」
「ぐぐぐ……伊吹乃くん、恨むわよ……」
大盛況と阿鼻叫喚の
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カオス過ぎ……
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