第22話

 今日は同時に二話投稿してます。

 前話忘れていた方はそちらからどうぞ。


 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


 午後四時。

 駅前大通り。


 叶恵と春来が駅前に向かって歩いている。


「…………」


「…………」


 ただし、両者無言である。

 それはもう、完全無欠の無言である。

 しかし、春来は先程からちらちらと叶恵の様子を伺い、叶恵は叶恵で先程呼びかけられて何でもないと言われて悶々としている。


 傍から見れば二人の背景に百合の花が咲き誇ることだろう。


 少なくとも傍目で叶恵を男と見抜ける者は居ない。

 男子の制服着てるから?何それオイシイノ?

 何せTRPG基準でAPP16の人間離れしそうな美貌である。それは横にいる春来にも適応されるが、何せこちらは正真正銘の女子である。疑うも何もあったものでは無い。


「「あの」」


 同時に声を掛け、若干気まずくなる二人。

 先に立ち直ったのは叶恵。


「なぁ、今日どうしたんだ?」


「ふぇ?」


 叶恵の質問が予想外だったのか、奇妙な声が出る春来聖女様。このキョトンとした表情だけで周りの男の一部が倒れ伏す。


 そこにダメ押しするように叶恵の微笑みが入ると、


「「「「「「ま、眩しっ」」」」」」


 男女関係なく目を焼かれる……は、言い過ぎとしても直視はし難い。二人とも自身の容姿には割と無頓着なのである。

 だから叶恵は校外では無駄に長い前髪を横に流しているし、春来は貼り付けたようなものとは別の笑顔を出す。


 もっとも、この二人は既に例のバス事件できっちりバレている。

 叶恵はその顔が。春来は普段とは違う、自然な表情(叶恵を撫でくりまわしてふやけた顔)が。


「いやぁ、言い方悪いけどさ、いつもは犬見てぇに楽しそうに話しかけてくるからさ」


 ……それでは犬と会話ができるかのように聞こえるのだが、気づかない叶恵である。

 先程とは別の意味で春来がポカンとしているのにも、当然気づかない。


「あ、いや、その……ちょっと、考え事を」


 明らかにしどろもどろな春来。これには気づかないをする叶恵。理由は不明なれど、深追いはしない。

 よわい十五にして、その辺りの加減がしっかりわかっているのである。


「へぇー、ま、あれだ。悩みがあるなら聞くから」


 女子のような顔立ちのくせに男前な笑顔である。


 周囲への被害頑張って考慮されていないために、女性の大半がボム兵化し、男性は何故か諦めたような達観したような目になっている。


 ならその発言と男前な笑顔を直に受けた春来はどうなるか。


「〜〜〜〜〜っ!!」


 こうなるのである。

 叶恵に見えないように俯き、その顔はボム兵どころか完全に大火事である。


(い、今のは……だ、駄目ですっ、耐えられませんっ………!)


 心情云々の話ではなく、純粋に威力が高すぎる模様。

 心の声がガッツリこちら(第三視点)に聞こえている。

 声に出ていないだけましである。


「お、おい……マジで大丈夫か?」


 そこに燃料投下やめい!いや、良いけども!


 ……すいません、つい本音が。


 さて、既に大火事で必死に消火中の所に大量の燃料(この場では酸素と思って下さい)をぶち込まれると何が起こるか。


 バックドラフトである。

 つまり、


「ふぁ………」


 バタンキュー。


「え!?おい!おーい!!大丈夫……じゃねえ!どっか休めるとこ……えーっと、ああもう良いや公園!」


 容量オーバーで倒れた春来に大焦りの叶恵である。

 近くに休める場がないとわかるやいなや公園という選択肢が浮かぶ辺りは流石である。


 ◆叶恵視点


 春来を背負い、急いで公園へと走る。

 なんで急に倒れたのかが全くわからねぇ。けど、もう初夏だ。熱中症になるには十分な気温の高さ。病院にさっさと連絡すべきなんだろうが、何となくすぐに目を覚ましそうな気もした。


 それでも怖いもんは怖いから今頃放課後デート(本人達は否定するだろうけど)中の和之には連絡を入れた。


 ポケットの中でスマホが通知を訴えてきてるから返信は来たみたいだ。

 つっても今は両手塞がっててどうにもならんがな!


「はぁっ、はぁっ……着いたぁ。っと、木陰はっと……」


 お、いい所あった。丁度ベンチもある。


 春来をベンチの上に降ろし、カバンの中からハンカチを取り出す。当たり前だけど予備の綺麗なヤツ。


 それを水道で濡らし、額の上に乗せる。


 さて、お次は水分だが、その前に。

 ポケットからスマホを取り出し通知を確認。和之と樫屋さんから連絡が来ていたが、書いてあることがバラバラだ。

 まずは和之。


『ええっ!救急車呼んだ方がいいんじゃないかな?大丈夫?』


 うん、ですよね。そうだよね。それが普通だよね。

 うん、では続いて樫屋さん。


『全くもって問題なしなので近くで見ておいてあげて下さい。和之くんと向かいます』


 おかしくない?倒れたんだよ?問題大ありだろ?

 しかもサラッとくんが、くんになってるし。

 こいつらなんでこれでお互い自信がないとか言えんだ。


 ……あー、今はそんなの言ってる暇ねぇな。


 すぐにぬるくなってしまったハンカチを再び濡らす。


 春来の額に再び乗せて、少しだけその顔を覗き見る。


 学校じゃ白々しい笑みを浮かべてばっかなのに、俺含め数人の前では心の底からって言うような綺麗な笑顔が浮かんでる。


 そして今は無防備であどけない顔だ。実年齢よりも数歳下に見える。


 そして、その顔を見てると何となく胸の中心辺りがムズムズする。


 なんだろうなこれ。


 分かんねえ。



 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


 なんか……良い意味で不穏……いやぁ、問題ないんですけどね?うん。

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