恋愛先、紹介します!

ゆで卵

第1話 プロローグ

 私立星華学園。

 学力─そこそこ

 部活─平凡

 進学実績─そこそこ


 明記されていない癖の強さがあったりするが、典型的な自称進学校である。

 だが、この高校には一つ噂がある。

 曰く──今年の入学者の中に、何か凄い奴がいる。

 曰く──そいつは恋愛相談のプロである。

 曰く──そいつに相談した時の恋愛成就率は、九十パーセントを超える。


 もちろん、これはただの噂。

 デマの可能性が高い、というよりも、恋愛成就率が九十パーセントを超えるなど、眉唾として片付けられるようなもの。

 大半の入学者は嘘だと切り捨て、新たな学生生活に身を投じた。


 だが、もしもそれが本当なら?


 自分の心の内にある、この想いが届くというのならと。


 信じるものは救われる……とはまた違うかもしれないが、元がただの噂。

 なら、その時くらいは、信じよう、信じてみよう。


 *


 四月十四日火曜日十二時十五分。


「あ゛ぁ゛〜〜、死ぬ。もう死ぬ。今すぐ死ぬ」


 私立星華学園一年五組 出席番号二番 伊吹乃いぶきの 叶恵かなえは、机に突っ伏し、目を閉じる。


「おい、急にどうした?」


 唐突に机に突っ伏した叶恵に、出席番号一番、つまりは前の席に座る青野あおの 宏敏ひろとが振り返って声を掛ける。


「英語とかやってられっか! 意味わかんねぇんだよ!」


「いや、分からなくもないけどだな……今授業ちゅ……」


 急に喚く叶恵。それに焦る宏敏。

 そして、


「おいコラ伊吹乃。授業中にいきなり大声で喚き散らすとはいい度胸してるじゃないか。ん?今なら言い訳を聞くぞ?聞き入れるかは別として」


 自分の授業中にいきなり大声で騒がれ、顔が引きつっている中年の英語教師、高野たかの 輝幸てるゆきである。


 現在十二時十五分。

 そして、四時間目の現在、授業は十二時半までである。

 つまり、叶恵はガッツリ授業中であるにも関わらず、現在進行形で受けている教科を唐突にやってられるかと喚き散らした訳である。


 要はヤバいやつである。


 が、


「つーかさぁ、お前何回目だよ?俺、ここまで面倒な奴初めて見たんだが」


 この奇行とも言える行動。

 なんと、叶恵は常習犯である。

 因みに他の教科でこの奇行が行われることは無い。純粋すぎる英語嫌い、英語アレルギーである。


 今日も今日とて指摘こそしたが、高野も諦め気味である。

 とはいえ、自分の受け持つ授業で意味のわからない行動をとられるため、こういうしかなくなる。


「とりあえず、保健室にでも行け」


 頭を見てもらえと、そういう訳である。


「そうしまーす。後、言い訳はないっス」


 ひょこっと頭を上げて立ち上がり、軽快な足取りで教室から出ていく叶恵。それを見たクラスメートは、


「なぁ、今日は誰が行くんだ?」


「はぁ?お前、あんな噂信じてんのかよ」


「だって彼女欲しいし」


「それ言ったらあたしらだって彼氏欲しいっての」


「高校生ってそんなもんじゃね?」


「身も蓋もないこと言うなよ」


「うえぇー」


「どしたん?」


「いや、何も」


「なんだそりゃ」


 ボソボソとした声の群れが教室を支配する。

 呆れた目で教室を出ていく叶恵を見つめていた高野は、教壇まで戻り、手をならす。


「ほら、授業再開するぞ~、ボソボソ喋ってねえでペン動かせ~」


 その声にはっとした一年五組一同はそそくさと教科書やノートを開き直し、説明と共に黒板に書き加えられていく文字を写していくのだった。


 *


 -一日前-


 とかわざわざ書く必要もなさそうだけど一応書いたぜってー訳で、

 四月十三日月曜日十二時十五分。


 この頃には既に頭がおかしいやつ認定された叶恵は、保健室へと向かわず、階段へと足を進めていた。


 この学園の校舎は、カタカナのエと、ローマ字のIを並べたような形をしており、叶恵の所属する一年五組はちょうどその接続部分に当たる角の教室でしかも四階。かなり面倒な場所にあるため、生徒からも教師からも不人気な教室である。 


 件の保健室はエの左下の先に当たる部分にあり、更には一階。つまり、一年五組の教室から、完全に真反対の位置となる。


 現在叶恵が向かっているのは、四階においての反対位置、つまりは保健室の直上に当たる位置にある教室。

 扉の上から伸びている板にはかすれた文字で『生徒会室』とあり、そのしたには垂れ幕で『恋愛相談部』と書いてある。


 叶恵は、その扉の鍵穴に、ポケットから出した鍵をさして、くるりと回す。

 カチャリという音が鳴り、解錠されたことがわかると、立て付けの悪い扉を勢いよく開く。


 旧生徒会室は、他の教室とは違い、壁まで板が張ってある上、正真正銘校舎のすみにあるため、窓は奥の一枚のみ。もしここに冷房をいつでもつけてよい言う学校側からの配慮がなければ、当時の生徒会役員は全員が真夏に病院送りになっていただろう。

 そんな教室の真ん中で、


「さてと」


 叶恵は、徐にスマホを取り出すと、に移動し、使使、ただいま絶賛授業真っ最中の生徒全員に向けて、こう送った。



 ―――――ただいまより、恋愛相談部を開きます。先着一名様となりますので、お急ぎください。場所は旧生徒会室となります。――――



 部員数一名、活動時間不定期、相談可能人数一回につき一人。


 部長――伊吹乃 叶恵


 恋愛成就率――九十パーセント超


 私立星華学園の噂の正体である。




 ∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥


 あとがき

 どうも、ゆで卵と言うものです。

 唐突に書きたくなった話を書いてる基本読み専の卵です。

 ラブコメ書くのは初めてなので、温かく見守っていただければと思います。

 基本不定期更新です。

 よろしくお願いします!

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