第64話 次の目的と、新たな人形
フレインたちを見送った街道側の草原で、ルナが俺に問いかけてくる。
「……本当に良かったのですか? 普通の人で、あれだけの女性には、もう二度と出会えないかもしれませんよ」
「いいんだよ、これで。それに、会いたくなったらいつでも会いにいくさ。何せ俺は自由なんだからな」
そのように答えると、エフィが鼻を鳴らした。
「強がりを言っちゃって。本当に自由なら、フレインも、ルンとランも、マリアも、みんな連れてきちゃえばよかったのにさ」
「エフィ、お前なあ……」
「ふんっだ」
こいつ、妙に機嫌が悪いな……。
「私たち人形と同じくらい心を通じさせる人がマスターに出来れば、機嫌も悪くなります」
アイスマリーが見透かしたようなことを言ってくる。
俺はそんな彼女の髪をくしゃくしゃと撫でてやると、
「バカ言え。お前たち以外に心を通じ合える者なんているはずがないだろう?」
そう言うと、エフィがまた鼻を鳴らして、
「ふんっ、ウソばっかり」
「心が通じ合えるからこそ、私たちはマスターの言っていることの意味が分かります」
「まったく。優しいウソだよね」
「はい。どちらにとっても、ですが」
……おいおい。心が通じ合っている割には、こいつらの言うことが理解出来ないんだが……。
「マスターは相変わらず女心分からなさ過ぎのトウヘンボクみたいだねっ!」
「まったく、これさえなければ……。いえ、この方がいいのかも知れませんが」
さっきからアイスマリーの分かりみが深すぎてヤバい。
「あ、あの、お兄様……わたくしとも心が通じ合っていますか……?」
「え?」
「だってわたくし、お兄様の人形じゃありませんし……」
「当たり前だろ? お前は俺の大事な妹だ」
彼女の頭を撫でながらそう言ってやると、ルナは目を輝かせた。
「ほ、本当ですか?」
「ああ」
しかし次の瞬間、しゅんとなる。
「でも、妹、ですか……」
「?」
どういうことだ?
何かを期待するように顔を赤らめながら見上げてくるルナに、俺が首を捻っていると、
「うわっ、出た! いつものルナのヤバいやつ!」
「痴妹的病気」
「アイスマイリーさん! 病気認定はさすがにひどいです! あと痴妹と呼ぶのはやめてくださいませ!」
女の子三人で何だか楽しそうなんだが……。
ちなみに『痴妹』は『ちもうと』と呼ぶ。
一通り騒いだ後、ルナが訊ねてくる。
「それでお兄様。これからどうされるおつもりですか?」
その問いに、俺は指を二本立てる。
「次の目的は二つだ」
「二つ?」
「ああ。一つは魔法剣の奥義、【アルテマソード】の極意を手に入れること。そしてもう一つは……」
「もう一つは?」
「新しい人形を作ろうと思っている」
そのセリフに、エフィとアイスマリーが揃って微妙な顔をする。
「新しい……」
「人形ですか……」
「……何か不満なのか?」
「いいえー」
「別に……」
どう見ても不満たらたらなんだが……。
一方でルナも、
「わたくしとしても、これ以上、変人と変態はごめんですわ」
「……ちょっと、ルナ?」
「……それはどういう意味でしょうか? というか、一番の変態はどこの誰ですか? 痴妹のくせに」
「自分で打った剣で感じる変態ドワーフには言われたくありませんわ! それと、痴妹って言わないでくださいませ!」
「あれ? 今思ったんだけど、もしかして、わたしが一番まともー?」
エフィが首をひねって呟いた。
……残念ながらそうかもしれない。割とヤバいエフィにそのように言わせる時点で、このパーティの特異性はお察しである。
「で? マスター。どうして新しい人形なんか作るの? こんな可愛いエフィちゃんがいる時点で、他の人形なんていらなくない?」
「やっぱり不満なんじゃねえかよ……。あとさりげなくアイスマリーを除外するな」
「マスター。このアイスマリー以外の人形を欲するからには、それなりの理由があるのでしょうね」
「……お前もかよ、アイスマリー」
「いいからとっとと理由を聞かせて下さい」
アイスマリーが冷たい。どうやら彼女も機嫌が悪いらしい。
俺はため息を吐きながら、
「……もし仮に魔王と戦うことになっても、俺たちだけで倒せるくらいには戦力を整えておきたいんだよ。そのためには、最低でもあとタンクとヒーラーが必須だ」
あと、ダンジョンを攻略する為にシーフも欲しいなぁ。
そんなことを考えていると、
『パ……それなら……あたしが……』
「ん? 今、何か言ったか?」
俺がそう訊くと、エフィが悪戯っぽい笑顔を浮かべる。
「あれぇ、寂し過ぎてフレインの幻聴でも聞こえちゃった?」
「……バカ。確かに何か声が聞こえたんだ」
「お兄様? 今日はルナが寂しさを癒して差し上げますわ」
「ありがとう、ルナ。でも……ほどほどにな」
釘を差しておかないと最近不安になるんだよな、こいつ。
「何なら、気晴らしに私の打った剣を使ってくれても良いのですよ?」
アイスマリーの何かを期待するような顔。
……というか、頬を紅潮させながら訳の分からないことを言うんじゃない。どうしてこんな子になっちゃったんだろう……。
しかしアイスマリーは咳払いを一つ入れると、話を元に戻す。
「タンクなら、私がこなせます。ですから、新しい人形などいりません」
そのセリフには首を横に振るしかない。
「アイスマリー。お前の長所は『力』だ。俺はお前を危険に晒すつもりはない。もちろん、盾にするつもりなんかさらさらないからな」
「マスター……」
アイスマリーは一転して、潤んだ瞳で見上げてくる。
「盾にするなら、何があっても絶対に大丈夫だと確信が出来るくらい固い奴じゃないとダメだ。アイスマリーだけじゃない。俺は仲間を危険に晒すつもりはさらさらないぞ」
俺がそう言うと、エフィもようやく反抗的な目をやめる。
「……まあ、新しい子が来ても、わたしのことをずっと可愛がってくれるって約束してくれるならいいけどさ~……」
「当たり前だろ。というか、アイスマリーが来る時もそう言ったじゃないか?」
「でも、今度の子は、今のマスターの一番の理想の女の子になるんでしょう……?」
エフィは前に見せたあの時と同じような、不安そうな目をしていた。
……そうか、こいつ。あの時のセリフを覚えていたのか……。
アイスマリーが来る時に、不安がっていたエフィを安心させるために俺が言ったセリフは、「今の俺の理想が詰まった子はお前だ。だから心配することはない」だった。
――しかし、今度作る子を前にして、エフィはその理由が覆ってしまうのを恐れている。
俺は苦笑するしかない。
「なあ、この短い間に、俺とお前はどれだけの思い出を共有したと思ってる?」
「え?」
「お前はもう、次の新しい子がけして手にすることが出来ない、俺との思い出をいっぱい持ってるんだぞ」
「あ、そ、そうか……」
「それだけ、お前に対する俺の情も深くなってるんだよ、エフィ」
「マ、マスターったら……」
照れて指をつんつんさせるエフィは新鮮で可愛かった。
そんなエフィに対し、アイスマリーが言う。
「確かにあなたは、私にはないグルニアでのマスターとの思い出を有していますからね」
「そ、そうだよね」
しかし喜ぶエフィを前にして、アイスマリーは鼻息を荒くすると、
「ですが、マスターに先に作ってもらったのは私の方です。幼い頃のマスターを知っているのは私だけなのです。妹よ、その辺のことを忘れないで下さい」
「誰が妹だっての! というか、妹はあんたの方でしょうが!?」
「いいえ、私が姉で、あなたが妹です」
「違う! わたしがお姉ちゃんで、あんたが妹!」
……また始まったよ、この件が。
俺はため息を吐くしかなかった。
……そろそろ話を進めてもいいかな?
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