ドールズクリエイトスキルで人形ハーレム無双 ~最強職【魔法剣士】から下級職【人形師】に転落した俺。どうせなら自分で作ったフィギュアたちと一緒に自重せず楽しく生きたいと思う~

よーみ

グルニア王国編

第1話 プロローグ

 鬱蒼と茂った木々に囲まれた街道に、剣戟の音が響き渡る。

 王城から受けたクエストを達成した帰り道、俺たち勇者パーティはミノタウロスの群れに遭遇した。

 魔法で強化された剣に、肉を切り裂く感触を感じる。

 俺はミノタウロスの腹に右手の剣を突き刺し、すかさず空いている左手で魔法を唱えた。


「フレアランス!」


 俺の左手から魔法で生み出された炎の槍が飛び出し、剣で抉られた傷口から直に魔法を受けたミノタウロスが倒れた。

 俺が攻撃し終えた隙を狙って、別のミノタウロスが棍棒を振り上げる。

 しかし、俺は慌てない。

 それを証明するようにして、そのミノタウロスの左目に矢が突き刺さった。


 ――今の矢は、A級弓術士であるセレナの弓攻撃。


 さらには彼女の矢が刺さった瞬間、俺の横から飛び出していく影が一つ。


 ――勇者アレクだ。


 彼は一瞬でミノタウロスに肉薄すると、聖剣を一閃する。

 聖剣はミノタウロスの分厚い肉を紙のように切り裂いた。

 それでそのミノタウロスは倒れた……かに見えた。

 ――だが、絶命寸前のそのミノタウロスは最後の力を振り絞ってアレクに棍棒を振り下ろしてくる。

 目を見開くアレクだったが、問題はない。

 俺はとっさに動くと、ミノタウロスの腕を剣で斬り飛ばす。

 それで絶命寸前だったその個体は完全に倒れた。


 そこで俺はハッとする。

 見ればミノタウロスの軍団に一匹だけ混じっていた【ミノタウロスメイジ】が魔法を詠唱していたからだ。

 ミノタウロスメイジは筋骨隆々なミノタウロス種では珍しい、魔力に特化した個体だ。

 その体内に渦巻く魔力から、かなりの大魔法を撃ってくることを悟る。

 間もなく詠唱が完成し、ミノタウロスメイジの魔法が俺たちを襲った。


【ブリザードストーム】


 氷の嵐が俺たち勇者パーティを包み込む。

 冬の吹雪など可愛く思えるほどの、すさまじい冷気がその場を支配した。

 ミノタウロスメイジが笑い声と思しき雄叫びを上げる。


 ――しかし、氷の嵐が止んだ時、ミノタウロスメイジの雄叫びが消えた。


 何故なら俺たちはまったくの無傷だったからだ。

 俺たちを包んでいる光の壁が、ミノタウロスメイジの魔法を完全に防ぎ切ってくれた。

 勇者パーティの最後の一人、【聖女】リムルの杖がうっすらと光っている。

 杖の光は俺たちを守っている魔法の壁の光と共鳴していた。

 つまり、リムルの白魔法がブリザードストームを防いでくれたのである。


 そこからも俺たちは危なげなく戦い、ミノタウロスの群れを撃破した。

 ミノタウロスはかなり上位種のモンスターだが、俺たちの敵ではない。

 これこそが勇者パーティの戦い。


 ――勇者アレク、聖女リムル、A級弓術士セレナ、そして俺……魔法剣士ネル。


 このパーティに隙はない。

 完璧なパーティだ。

 ……そう。見掛けだけはな。



 **************************************



「ネル! さっきの戦い方はなんだ!」


 ……早速、勇者のアレクが絡んできた。

 はぁ、面倒くさいけど相手をしなければもっと突っかかってくるからな、こいつは。


「……なにがだよ?」

「なにが? なにが、だって? 君は自分がやったことも分かっていないのか!?」


 先程の戦いで俺は特に自分に落ち度があったとは思っていない。

 それどころかこいつのピンチを救ってやったはずだ。

 しかし、どうやらそのことが気に食わなかったようだ。


「君が一人で突出するから、僕ら他のメンバーがフォローすることになり、そのせいで仲間がピンチに陥ったんだよ! さっきミノタウロスの棍棒が僕に振り下ろされたのを見ていなかったのか!? いや、見えていたはずだ!」

「……隣に俺がいたんだから問題なかっただろう? 実際、俺はお前を助けた」

「助けた? 助けただって? ハハッ、こいつはお笑いだ。自分でピンチに陥れておいて救世主面かい? さすが最強の魔法剣士様は言うこともやることも違うね!」

「そうじゃない。俺はもっと仲間を信頼しろと言ってるんだ」

「仲間をピンチに陥れる奴のことを、どうやって信頼しろと言うんだよ!」


 ……話にならないとはこのことだ。

 そもそもアレクは俺のことが気に食わないのだ。


 歴代勇者の中でも突出して強い天才アレク。


 しかし、俺はその天才勇者であるアレクと同等の力を持っている。

 いや、聖剣というチート武器を持ってようやく互角なのだから、聖剣のアドバンテージを抜いたら実質、俺の方が実力は上だと思う。

 アレクはそれが面白くないのだ。


「いい加減にしなよ、アレク」

「し、しかしセレナ!」


 A級弓術士のセレナが止めてくれた……かに見えるがそうではない。


「こんなバカに何を言っても無駄だよ」


 ……すごい言い草だな。

 だが、これは別に今に限ったことではないので特に驚きはしない。

 元々口さがないセレナは、アレクに惚れていることもあって俺に対して辛辣だった。

 そして、それは聖女リムルも同じである。


「光の加護を受ける勇者様が、間違ったことをおっしゃるはずがございません」


 リムルは胸の前で手を組み敬虔な表情でそう言った。

 一見すると『聖女』の名にふさわしい神秘的に見える少女だが……。


 ――リムルは盲目的に『勇者』というものを信じているだけの女だ。


 いつも「勇者様」「勇者様」と言って、アレクの言うことに対し疑うことをしない。

 半分はそのように『洗脳』した教会のせいだろうが、今まで俺にしてきた仕打ちを考えると、あまり同情的な気分になれなかった。

 この女、俺が瀕死の傷を受けた時でも、アレクの掠り傷を治すことを優先するビッチだからな……。

 つまり俺、味方がいないわけである。


「と、言うわけだよ。これで君の方が悪いというのが分かったかい?」


 ドヤ顔でそう言う勇者アレクと、その横でニヤつくA級弓術士セレナ。そして恍惚な表情でアレクを見つめる聖女リムル。

 ひょえー。よくこんなパーティで頑張ってると思うよ、俺。

 でも、ここで反論しようものならさらに孤立するのが分かっているので、


「……悪かったよ。次からは気を付ける」


 結局は俺が折れるしかない。


「最初からそう言えばいいものを。何かと言い訳を口にするのは君の悪い癖だよ、ネル」


 上から説教してから、アレクは踵を返した。

 セレナとリムルもそれに従う。

 彼らの背中を見つめながら、ミノタウロスの死骸の中にぽつんと残される俺。

 ……これが勇者パーティの本当の姿だった。



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