陰キャぼっちの俺は、ある日校内一の美少女から婚約者だということを告げられました。
黒猫(ながしょー)
第1話 出会いは突然に
新しい日常を告げる季節がやってきた。
キャンパス内は大学デビューを果たした新入生が目立ち、上級生達はサークルの勧誘活動で明け暮れている。
そんな中で俺こと
今日の講義は二限目から。
そよ風が少し吹くたびに桜の花びらがひらひらと宙を舞う。
俺は思うのだが、よく大学生は遊んでいるイメージを持たれやすい。バイトのシフト関係とかでも前に働いていた店の店長から大学生なんだから時間あるだろみたいなことを言われたりするし、世間から見ても大学生は暇を持て余していると思われている。
なぜそんな風に見られがちになってしまうのかはもう言うまでもなく、その見た目とか、一部の奴らの行動に過ぎない。大学デビューをした奴ら全員が遊びまくっていると言っているわけではないにしろ、時間があれば、友人と買い物やゲーセン、パチンコなどに行っては、夜遅くまで遊びつくし、翌日の授業には出席しない。そういう奴らが本当に多い。
名門大学ではどうなのかは知らないが、この大学みたいな二流、三流となれば、大体がこんなもんだろう。
大学は遊びのためにあるところではなく、あくまで学びの場だ。風紀を乱すなとかそんなかたっ苦しいことは言わない。が、一部の奴らの行動で大学全体に悪影響をきたしているのは事実だ。
––––マジ迷惑だつーの。
真面目に勉強している奴らだっているんだよ。特に俺とかさ。
というか、なんで真面目な奴ほどモテないわけ?
勉強もできて、顔もそこそこで真面目な性格で清潔感もある。友人がいないことを除けば、そこら辺のチャラ男よりかもスペックは高いはず。そろそろ女子から話しかけられてもおかしくないと思うぞ?
まぁ、現代の女子はたぶん中身より外見なんだろうな。今流行りのファッションをした男子を見れば、おしゃれだとか、美意識高いとかそれだけで好感度が上がってしまうレベルだ。美意識ほぼゼロの俺からしてみれば、無理。そこまでして女子からモテたいとも思わんし。
そんなこんなで気がつけば、講義がある四号館の前へとたどり着いていた。
俺は建物内に入ると、端っこにある教室へと向かう。
ひな壇になった教室内はやはりかと言うくらいに陽キャが後方部の席を支配し、隠キャが前に座っている。
大学にもなると、教室での座席順はほとんどの場合が自由だ。そのためもあってか、教室の座席順は自然とスクールカーストの階級にも似たような感じになってしまう。陽キャが隠キャを見下している……そんな感覚に捉われてしまうのは俺だけだろうか?
とりあえず俺は一番前の席に荷物を置く。
俺は隠キャの中でも一番下だ。なにせ、友人がいないからな。
そんな自虐的なことを考えながら、スマホをいじっていると、授業開始のチャイムが鳴り響く。それと同時に教授が教室後方の入り口から入ってくると、教壇に立ち、さっそく講義が始まる。
俺は教授の講義を聞きながら、黒板に板書されたことを書き写す。
一方で後方部に座っている陽キャたちはガヤガヤとお喋り。
喋るくらいなら教室から出ていけよという話になってくるのだが、そうはいかない。大学には高校までとは違い、単位というものが存在する。それを取得しなければ、次の学年に進級できないどころか留年となってしまう。そのため、陽キャたちは仕方なく教室に残っているというわけだ。
先生もこの状況に注意する人もいることにはいるのだが、大体は見て見ぬふりが多い。
まぁ、大学生と言っても同級生の中にはすでに社会人として働いている人も多い。学生というのは身分上であって、中身は大人だ。だから、先生方もそこら辺は大人なんだからという思いで注意しないのだろう。
後ろばかり気にしていては、せっかくの講義も頭の中に入らない。
俺は再び集中に入ると、黙々とノートに板書事項を書いていく。
それを繰り返すこと数十分。
気がつけば、結構な量をノートに書き写していた。
––––今日、板書多くないか?
そう思っていると、ふと隣の席に人の気配を感じた。
誰だよと思いながら、隣の席を横目でちらっと見る。
「……」
数秒間ではあったが、つい見惚れてしまった。
本当に誰? てか、なんで俺の隣?
席は他にもたくさんあるはずだ。それこそ後方部にも何席か空いているし、友人もきっといるだろう。
それなのになぜ俺の隣?
––––いやいや、たまたまこの席が目に入っただけかもしれない。
よく席選びの時は、一番最初に目がいった場所へ決める。隣の子もきっとその類なのかもしれない。
一旦集中が途切れてしまったことにより、少し講義を聞き漏らしてしまった。期末テストではどこがどのようにして出題されるのかがわからない。そのためにも一言一句とも聞き漏らさないようにしているのだが……まぁいいか。念のためにスマホで録音してるし。
それから俺は再び講義に聞き入った。
どのくらい時間が経過したかなんて気にしない。とにかく教授の話を聞き、板書をノートに書き写す。この作業に没頭していた。
☆
……していたのだが、隣の方からものすごい視線を感じるのだが?
これは気のせいだろうか? 一瞬そう思ったのだが、視線を感じる気のせいってなんだよ。自意識過剰か。
意を決して話しかけてみようかとも最初こそ思ったのだが、もし違った場合が恥ずかしい。黒歴史という名の教科書に載りかねない。
俺は隣の席を横目でちらっと確認する。
「っ?!」
すると、目線がちょうど合ってしまい、条件反射的に逸らしてしまった。
––––なんで俺の方をずっと見てんだよ?!
てか、可愛すぎないか?
「あ、あの……」
「ひ、ひゃい?!」
隣の子にいきなり話しかけられた俺は、つい噛んでしまった。
やばい。
長年女子という存在から目を背けていたせいだろうか? 噛んでしまうという禁断症状が出てしまった。
このままでは変なやつだと思われかねない。……いいや、もう思われてるか?
「もしかしてだけど……海斗、くんだよね……?」
「え……?」
頭の中が真っ白になった。
なんでこの子が俺の名前を知っているのだろうか?
その前にこの子どこかで見たことがあると思っていたけど、去年の学祭で開かれたミスキャンパスのグランプリじゃん。ちなみに俺は散々言っていると思うが、友人がいない。ということは、必然的に学祭はノー参加。後日、キャンパス内の掲示板で知った。
その時、掲示板には名前が書かれていたけど、たしか……
艶やかに手入れが行き渡った長い黒髪に、目鼻立ちがはっきりとした美しい顔。白のチュールトップスの上にベージュのバックリボンワンピースがさらに清楚感を引き立てている。
改めて考えてみると、本当にこれは現実なのだろうか? 俺は夢でも見ているのではないだろうか?
俺の隣の席には今、校内一の美少女が座っているわけでしかも名前まで知られている。
夏空は少し不安げな表情を見せつつも、何かを確かめるような視線を送りつけ、
「私のこと……覚えてるかしら?」
「……は?」
俺の中で時間が停止したような感覚に襲われた。
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