第27話 医務室で少女らは言葉を交わす
「おい、早く行けよ!」
「ちょっ、強く押さないでよ……ッ!!」
「貴様ら、Sクラスである私を早く通さんか! 一刻も早くこの学院から避難せねば!!」
「―――落ち着きなさい、貴方達」
『……ッ!?』
この冷たくも慇懃な男性の声に、非常口に殺到していた多くの生徒の騒めき声が静まる。
緊張と不安に包まれる中、生徒らがその声のもとへと視線を向けるとそこにはレオナルド・ケルトが眼鏡のブリッジをくいっと上げながら立っていた。
「魔剣学院の生徒ともあろう者がみっともなく騒がないで下さい。いくら
「わ、わかりました……!」
「レオナルド先生がそう言うなら……!」
そう言ってレオナルドの言いつけ通りに学院の外側へ非難する学院の生徒たち。外ではエイミー含め、学院の教師たちが必死の形相で魔剣学院の玄関前へと生徒を誘導していた。
性格や表情は氷のように冷たくとも、教師としての実力や人柄に生徒からの信頼を得ているレオナルド。軽く息を吐くと、背後へ咄嗟に振り向いた。
「―――遅い」
「ギャウンッッ!?」
地面には腹部を切り裂かれた跡を残して、見事に絶命したハウンドウルフが横たわっていた。
この魔獣の死因は明らかに剣で切り裂かれた裂傷だった。だがレオナルドの手には
レオナルドは冷酷な瞳で使役魔獣の証である首輪の付いたそのハウンドウルフの死体を見遣ると、やがて向こう側の方から一人の紫髪の女性が手に魔剣を持って歩いてくる姿が見えた。
「レオナルド先生。避難誘導兼魔獣の駆除、お疲れ様です。見事な御手際でした」
「学院長、生徒の避難誘導はほぼ完了致しました。しかし先程からクリスティア第三皇女殿下とローリエ・クランベル、そしてハルト・クレイドルが見当たらないのですが」
「えぇ、彼等にはこの現状の対処をお願いしているので問題ありませんよ」
「……そうですか」
「ふふふ、もしかして心配ですか?」
「いえ、先程ゼロクラスの生徒も全員避難させましたが、その際に行方を尋ねられたのでこうして貴方に伺ったまでです」
「
「ふん……、分かりました」
聖母のような柔和な笑みと絶対零度の冷徹な表情が交わる。だがそれも一瞬。無愛想な顔でレオナルドは蒼いコートを翻すと、その場からスタスタと去る。
それを静かに見送ったルーメリアは自らを落ち着かせるようにふぅと息を吐くが、突如爆音が廊下中に響き渡った。
ふとそこに視線を向けると、窓から見える紅蓮の炎、
「第三皇女殿下を頼みましたよ、ハルト。そして―――」
◇
―――ときは少しだけ遡る。
「はっ、はっ、はっ……!」
突如闘技アリーナの壁が爆破、黒装束の人物と使役魔獣であるハウンドウルフが闘技アリーナに出現。このレーヴァテイン帝国の第三皇女クリスティアは意識を失ったローリエを連れて逃げていた。
クリスティアは思わず歯を食いしばる。
「リーゼ、ゼロクラスの方々……、他の生徒のみなさんは大丈夫でしょうか……」
心配しつつも彼女の心の中で燻ぶるのは無力感。ハルトとリーリアが自らを庇うように並ぶあの姿は、まるで”お前はいつまでも守られるべき存在なのだ”と見せつけられているかのようだった。
「……ううん、私はレーヴァテイン帝国の第三皇女クリスティア・ヴァン・レーヴァテイン。弱いままではいられないと思ったからこそ、私は―――!」
余計な思考を振り払うかようにかぶりを振りながら、クリスティアは自らの膂力を以ってローリエを運ぶ。必死に向かう先はこの学院の医務室。
未だに学院内では爆発音や振動が続いているが、医務室は万が一に備えて特別頑丈な造りになっていた筈だとクリスティアは記憶していた。
もしクリスティア一人だったのならば学院の外へと向かっているのだが、現在彼女の背中にはぐったりと意識を失っているピンク髪の少女ローリエがいる。
ひとまず、医務室のベッドに寝かせて異常がないかを確かめなければと思うクリスティアだったが……。
背中から、小さな呻き声が聞こえた。
「う、うぅん……」
「ロ、ローリエさん!? 目が覚めましたか!?」
「あれ、クリっち……? ウチ、確か寮に戻ろうとして……って、ウチ襲われたんだったー!」
「はい、なのでこれからローリエさんの容態を確かめるために医務室に向かう途中だったんです。ローリエさん、どこか身体に痛みはありますか?」
「んー、特に痛みとかは無いけど、ちょっと身体が疲れちゃったなー。何だか重いや」
「では医務室のベッドで休みましょう。闘技アリーナを出てからは見掛けませんが、襲撃者はどうやら魔獣を使役している上、爆発物を学院中にしかけた様なのです。正直このまま無暗に外へ避難するよりも、医務室でじっとしていた方が安全かと考えていたところだったのです」
「そっかそっかー。じゃあ医務室でずーっと休んでよっか」
「えぇ、わかりました」
そう言ってクリスティアが駆け足気味に足を運んでいると、次第に医務室の扉が見えてきた。
そして扉の前に立つ。スライド式の扉には生体認証機能が付いているロック型の魔具が取り付けてあったのだが、取手に手を掛けて力を入れると抵抗なく扉が開いた。どうやら幸いにも鍵はかかっていなかったようだ。
「お邪魔します」
「もぅ、クリっちはこんなときでも律儀だねぇ」
静かに扉を閉めると、クリスティアは魔力を流して内部から鍵を掛ける。もう既に医務室教諭も避難済みなのだろう、医務室の中は無人だった。
ローリエを背負ったままのクリスティアは、ひとまず奥側にあったカーテンで仕切られているベッドへ彼女を運ぶとゆっくりと降ろす。
やがてローリエは力が抜けたように上半身がベッドへ倒れ込んだ。
入室した時から薬品の匂いが鼻孔をかすめるが、気にもせずクリスティアはすぐさま棚にあったブランケットを手に取ると彼女の上にふわりと掛ける。
ローリエは表情をにへらっとさせると、クリスティアへと話し掛けた。
「ありがと、クリっちぃ……」
「いえ、まだまだ気を抜ける状況ではありませんが、今はゆっくりと休んで下さい。あ、腰に身に付けている魔剣は外さなくても大丈夫ですか?」
「だいじょぶだいじょぶ。……ウチの大事な相棒だし」
そう言って、ローリエはブランケットの下で腰元の二振りの魔剣を撫でる。その瞳はとても優し気だった。きっと彼女にとって何かしら思い入れのある魔剣なのだろう。来客用の簡易な丸椅子に座って近くでそれを見ていたクリスティアも、幼少期から所持していた魔剣のことを思い馳せる。
(―――『宝晶蛇剣メデュシアナ』。
クリスティアは己の未熟さ故に魔剣を取り上げられた感傷に浸りながらも、腰に身に付けている魔剣精クラリスを一撫でする。品格があり、紅く燃え盛る焔のような剣を見つめる彼女の紅い瞳には申し訳なさが込められていた。
「……もう少しだけ、我慢してね」
「んー、どったのー?」
「あ、いえ、なんでもないです!」
「ふーん」
小さな呟きだったが、横になったローリエに聞こえていたのかクリスティアは手を大きく横に振って慌てて取り繕う。
だが、ベッドに横になったローリエは言葉を続けた。何気なく。自然に。
「―――ねぇ、クリっちって『
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