第11話 クリスティア第三皇女VSリーリア 2




「さて、飽きて参りましたしそろそろ終わりにしましょうか。まぁこれはあくまで”訓練・・”ですし、皇女という立場とて気絶させても問題ないでしょう。……ふん、わたくしの風属性の魔剣『ウィンディア』の剣技能スキルを使うまでもありませんでしたわねぇ」

「はぁ、はぁ……ッ、まだ、終わってません……!!」

「ふんっ、そんな満身創痍な状態で何が出来ますの? あぁ、『訓練に付き合って頂きありがとうございます』という感謝のお言葉なら喜んで歓迎致しますが?」



 そう言ってリーリアは見下すようにクリスティアを嘲笑う。彼女の背後にいる複数の生徒もクスクスと笑っていた。


 実力を測るため今まで静観を貫いていたハルト。そろそろ頃合いかと思い二人の間に入ろうと動き出そうとするも、ふとあることに気が付く。



(? クリスはまだ、本当に諦めていない……?)



 クリスティアは劣勢においても紅い瞳に宿る不屈の闘志は消えていなかった。それが垣間見えたハルトはその疑問に思わず眉を顰めるも、そんな彼女の動向を見守ることにした。


 そして、クリスティアは動き出す。



「―――お願い、力を貸して……!」

「……? 急に魔剣を掲げていったい何を……?」



 いきなり彼女は神にでも祈るようにしてクラリスを掲げる。リーリスが訝しげな目でそんな第三皇女の姿へ視線を向けていると、この場にいる全員が驚くべき現象が起こった。


 ―――魔剣精クラリスが、朱い焔の光に包まれたのだ。



(ウソだろ……ッ!? 俺とレイアがこれまで何度も魔力を注ぎ込んで目覚めさせようとしたが、クラリスが起きることは一度も無かった……!! どういうことだシャル……!?)

『訂正すると未だクラリスの意識は眠ったままです。しかしあれは正真正銘クラリスが保有する力。この現象は以前レイアが話していた”覚醒”という言葉にぴったりと当て嵌まります。とシャルロットはクリスティアの謎の力に動揺しながらそのように推察します。あわわわ』



 ハルトとシャルロットは目の前で起こった思いがけない事態に慌てたように動揺するが、彼女は止まらない。


 いつの間にかクリスティアの周囲には、真っ赤に燃える小さな炎の球体が複数空中に浮いていたのだ。


 ハルトは思わず瞠目どうもくする。それはハルトが良く知っている、『紅蓮の炎華姫クリムゾン・プリンセス』ミリア・ヴァ―ミリオンが扱う剣技能スキルの一つだった。



「で、できた……ッ!!」

「な、なんですのそれは……っ!? 『無能皇女サード・プリエステス』は剣技能スキルを一切発動することが出来ないのでは……!? ふ、ふん……っ、そうですわ! そ、そんなのこけおどしに決まって―――」

「え、えと……っ、―――『業火の聖球体ブレイジング・スフィア』……?」

「―――ヒッ!」



 赤い炎の球体の一つがギュンッッ!!と目で追えぬスピードでリーリアの頬を掠める。自分の頬に血が流れていることに気付いた彼女は一瞬だけ動きが止まるも、その事実に恐怖が襲い掛かりぺたんと尻もちをついた。

 少しでも位置がずれていたら、顔が消し飛んでいたからだ。


 唐突に訪れた死の恐怖。リーリアのその表情は先程までの得意げなものとは異なり、驚愕一色に歪んでいた。


 ―――だがこの中で一番に驚愕していたのは、この剣技能スキルを発動したクリスティア本人だった。



「―――あ、あぁ……ッ! ご、ごめんなさい!! もう大丈夫だから、消えて……ッ!!」



 クリスティアが慌てて手に持つクラリスへそのように言葉を必死に投げかけると、やがて剣に纏う朱い焔の光は止んだ。それと同時にクリスティアの周囲に浮かんでいた残りの炎の球体がフッと消え去る。


 本人とリーリス側の集団の生徒は剣技能スキルの脅威が去ったことに安堵するが、一人だけ肩を震わせて怒りに燃え上がる人物がいた。


 リーリアはフラフラと立ち上がると、俯きながら何かを呟く。



「……ま、……わ」

「え……?」

「―――この出来損ない風情がぁッ! このわたくしの柔肌に傷を付けるなんて、絶対に絶対に絶っ対に許しませんわッッッ!! 魔剣ウィンディア、応えなさい!! 『突風の衝撃斬ウィンドスラッシュ』ッッッ!!!!」



 彼女は長い巻き髪を振り乱しながら吠えると、魔剣の剣技能スキルを放つ。激しい風を纏う飛翔する斬撃がクリスティアに襲い掛かった。



「あ…………!」



 彼女は小さな声を洩らしながら呆然としたまま。強制的に剣技能スキルの使用を自ら中断した所為で、そしてリーリアの剣技能スキル発動の速度が速くて彼女は咄嗟に動けない。


 クリスティアは自らに迫り来る攻撃に動けないままながらも、ギュッとクラリスを抱きしめた。


 その彼女の仕草は、これから襲い掛かる痛みに抗えないと諦めたからか、それとも純粋にただ魔剣精クラリスを守ろうとした行動なのか……。


 クリスティア本人にも分からなかった。



「おーっほほほ! これでおしまいですわぁ!!」

「クー様ッ! クー様避けて下さいッ!!」

「…………ッ!」



 叫び声が聞こえるも動けない。だがそのままリーリアの剣技能スキルが当たる直前、ある人物の声が近くで聞こえた。


 それは、最近聞いたばかりの頼もしげな柔らかい声。



「―――よく頑張ったな」

「え…………?」



 次の瞬間、クリスティアの目前まで迫り来ていた剣技能スキルが霧散した。剣の一振りでリーリアの剣技能スキルを切り裂いたのだ。


 ―――いつの間にクリスティアの近くにいた青年によって。



「なっ!? 剣技練度ソードアーツ80パーセント以上であるわたくしの剣技能スキルが、たった一振りで打ち消された……!? 貴方、いったい何者なんですの!?」

「俺か? そうだな―――」



 彼は気だるげな表情で、しかしはっきりとした口調で言葉を言い放った。



「俺の名前はハルト・クレイドル。ここに来たばかりの新任教師で、ぐーたらするのが大好きな、かなり強い魔剣使いだ。―――ここ、テストに出るぞ?」



 ハルトはニヤリと微笑んだ。









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