Happy Birthday To Me

雨宮r

第1話

「はっぴばーすでーとぅーみー♪」

「はっぴばーすでーとぅーみー♪」

「はっぴばーすでーでぃあわたしー♪」

「はっぴばーすでーとぅーみー♪」

 誰もいない部屋に音がこだました。部屋には彼女一人しかいない。楽しそうに歌っている彼女の前には誕生日ケーキらしきものが置かれており、ケーキには6本のろうそくが立っている。

「おいしそうなケーキ。つくったかいがあったわ。」

 実際には購入してきたケーキだったが、彼女はふりをして楽しんでいるのだろう。せっかくの誕生日だ。多少の嘘ぐらいは許されるだろう。許されてしかるべきだ。

「わあい。おっきなイチゴ。やったぁ。」

 なんだかんだ子供なんだろう。自分で作ったという設定も忘れ、大きなイチゴに喜んでいる。買ってきたのは大きなイチゴの乗ったショートケーキだった。ホイップクリームがたくさん乗っていて見た目もボリューミーだった。

「よーし。たべるぞぉ。…っと、たべるまえにちょっとこわいけどもう一かいだけ、でん気をけしてからおうたをうたっておこう。じゃないとふいんきが出ないもん。」

 そういって部屋の電気を消しに行く。よく見るとろうそくはろうそくではなく息に反応して消える仕組みの電飾のようだった。電気を消すとまた嬉しそうに戻ってきて、楽しそうに歌いだす。

「はっぴばーすでーとぅーみー♪」



「はっぴばーすでーとぅーみー♪」



「はっぴばーすでーでぃあわたしー♪」



「はっぴばーすでーとぅーみー♪」


 今度はゆっくりと間をとるように歌う。そうしないと、早く終わってしまうから。ゆっくりとゆっくりとフレーズをかみしめるように歌う。


 そうして歌い終わってしまうと

「まだかなぁ。」

と寂しそうにつぶやく。

 時計に目をやると短い針が頂点に到達しようとしていた。

ゴーン

ゴーン

ゴーン

ゴーン

ゴーン

ゴーン

ゴーン

ゴーン

ゴーン

ゴーン

ゴーン

ゴーン

 時間が来てしまった。少女は諦めてケーキを食べようとする。

ガチャ

「はぁ……はぁ……はぁ………どう?間に合った?」

慌てた様子で女性は入ってきた。よっぽど急いで走ってきたのだろう。息が上がっている。女性はちらりと時計を見て落胆する。

「今年も間に合わなかったか。」

 女性は少女の母親だった。仕事が忙しく特にこの時期になると仕事が忙しく、家に帰れなくなることが多い。今年も急いで帰ってきたが間に合わなかったようだ。

「お母さん。おかえり!!!」

「あら?起きてたの?もうこんな時間よ?」

「うんお母さんをまってたの。」

 母親は少女の言葉を聞くと時計を手に取り時計の針を戻し始めた。

「それじゃあ誕生日の延長戦始めようか。」

「うん!!」

 まだ誕生日は終わらない。

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