幼馴染たち勇者パーティーにパワハラされた僕は魔王サイドに寝返った
青水
第1話
「うわっ……!」
僕は木の根っこにつまずいて転んだ。ビターン、という効果音が似合うほど見事に、顔面から地面へダイブしてしまった。
い、痛い……。涙が出そうになった。
膨れたカエルみたいにぱんぱんに膨れ上がった、巨大なリュックサックが地面に投げ出される。地面にぶつかった衝撃でリュックの口が開いてしまい、中の物が地面に散らばった。
「ご、ごめん……」
すぐに謝ると、僕は慌てて荷物を拾い始めた。
パーティーのみんなは、そんな僕を手伝うわけでもなく、ただ黙って僕のことを見ていた。やがて、拾い集めた荷物を何とかリュックサックに詰め込むと、四人がいつものように僕のことを罵倒し始めた。
「ほんっっと、あんたって使えないわね!」
「剣も魔法もろくに使えねえんだから、荷物くらいちゃんと持てよボケ!」
「どうしてあなたのような方が、神託によって選ばれたのか不思議でなりません」
「本当に。こんな無能が僕たちと同じく勇者だなんて……」
そう、彼らは僕の仲間……じゃない。
あくまで巫女による神託によって勇者に選ばれ、魔王を討伐するためパーティーを組んで旅をしているだけの……ただの他人だ。
だから、僕と彼らの間に友情なんて……そんなものは、ないんだ……。
「僕は……どうして勇者に選ばれたんだろう?」
ぽつりとつぶやいた。
僕には何の能力もない。
ほかの四人のように身体能力が高いわけでも、高い魔法適性を持っているわけでもない。それどころか、何もかもが――残念なことだけど――人並み以下だ。
そんな僕が勇者だなんて……なにかの冗談でしょ? ありえないよ……。
巫女様の予言は一〇〇パーセント当たると言われているけど、僕を勇者に選んだことに関しては、明らかに間違っている。
僕に魔王を倒せるような素質なんてあるわけない。
「巫女様だって一回くらいは間違えちゃうってことよ」
パーティーのリーダーであるエイミが言った。
エイミは僕と同じ村の出身で幼馴染だ。しかしだからといって、仲がいいわけじゃない。僕は昔からエイミの子分――悪く言えば奴隷――のような存在だった。
僕はエイミに命じられるがままに動き、彼女の命令を守れなければ、さんざん罵倒される。精神が壊れてしまうほどに。それくらいで済むなら比較的マシな方だ。ひどいときは罵倒にプラスして、暴力が追加される。
幼馴染といっても、エイミは16歳で僕は14歳。同年代の男と比べて体の小さい僕では勝ち目がない。ぼこぼこにされることもしばしば。
エイミは昔から剣と魔法の才能に恵まれていた。その圧倒的な才能は王都にまでとどろくほどだった。だから、彼女が勇者に選ばれた、と聞いたとき、僕はそれほど驚かなかった。
僕が勇者に選ばれた、という知らせを聞いたときは驚いたし、不機嫌になったエイミにぼこぼこにされた。
「ま、巫女様も人間ってこったな」
ひゃひゃひゃ、と笑いながら僕の尻を蹴飛ばすのは、大剣使いのアランだ。
アランはパーティー最年長で(20代半ばくらい)、三大欲求を上回るくらいに戦闘が好きなバトルジャンキーだ。
もともとはS級冒険者で、腕は立つが性格が狂っていると評判(?)だった。弱肉強食的な考えを持っていて、弱者をいじめるのが趣味という陰湿さも持っている。
男女問わず、自分より強者が好きで、自分より弱者が嫌い。
つまり、パーティーの他メンバーのことはそこそこ好いていて、だけど僕のことは弱いから嫌いというわけである。
「巫女様のことは尊敬していますし、神託が外れるなんてことはありえないと思うのですが……あなたはねえ……」
そう言って、神殿に仕える女神官――エレナは憐れみと侮蔑の混ざった表情で、僕を見つめる。
エレナは回復魔法を得意としているヒーラーだ。といっても、攻撃魔法や武術なんかもそれなりに使えるらしく、魔物との戦闘の際は、前線に立つことが多い。
にこにことした微笑みを絶やさず、柔和な顔立ちをしているので、聖女のようにも思えるけれど、実際は腹黒くて性格が悪い。
アランと同じく弱い者いじめが好きだったりもする。
「外れたんだよ、神託は。アランの言う通り、巫女様も人間なんだ。一〇〇回に一回くらいは外れてしまうものさ」
聖王国の大貴族の長男であるライルはプライドが高くて、基本的に平民のことは見下している。
一応、旅を共にするメンバーのことは、自分と同等とまではいかないものの、ある程度は敬意をもって――少なくとも、蔑みは表に出さずに――接するが、僕に対してはその辺の村人と同じような、むしろそれ以下の接し方だ。
「よしっ! もうすぐこのクソみてえに陰鬱な森から出られるぜ」とアラン。
「森を抜ければ、ロロンの町がありますね」
エレナは地図を見ながら言う。
「今夜はロロンに泊まりましょう」
「いいねえ!」
ライルは上機嫌で言った。
多分、夜に遊びに出かけるつもりなんだろう。
「早く行くわよっ!」
そう言った後で、エイミは僕を見て、
「次、リュックの中身ぶちまけたら、殺すわよ」
僕が返事をする前に、エイミは走っていった。
四人がのんびりとお喋りしながら歩いている中、僕は一人、彼らの後ろをとぼとぼ歩きながら考えていた。
もうパーティーから抜けようかなあ、と。
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