第11話 第十一話 ダンジョンの中で爆発って起こるの?
満身創痍の二人が部屋逃げ出そうとする。金髪の美青年はオロバスの進路を阻むように対峙する。
獲物を逃した化け物は美女と見間違う魔法剣士に向かい、威嚇する。
クロフェがつけた切り傷は完全に塞がっており、戦いの後遺症は全く見えなかった。
巨大な馬の部分だけでも威圧感があるが、上半身の六本の手に各々の武器は決して一人で立ち向かってはいけない絶望的な戦力差にみえる。
手練の冒険者が十人で立ち向かっていても決して楽天的に考えられる相手ではない。
ミズホはそのしなやかな腰を落として刀に手をかける。
「我がマナより風の力を与えよ!」
先手を打ったのはオロバスの三本の矢だった。
矢は風の力を受け、空気を切り裂き、恐るべし速度で金髪の魔法剣士に襲いかかる。
三本の矢が石の床に刺さった時、ミズホの姿はそこにはなかった。
ライオンの顔は目の前に突然現れた剣士に反射的に噛み付こうとする。
ズルリ。
馬の太い胴が水平にずれる。
光一閃!
ミズホの光の魔法を乗せた刀がオロバスの胴を水平に切り裂く。
「ほう、面白い技を使う。しかしそれだけでは倒せんよ」
上空では興味深そうに戦いを見守るマッチョ男が呟く。
ずれた上下の間にはミミズにようなものが大量にうねうねと動き、体をくっつけて修復しようとしている。
徐々に傷は塞がっていくが、その巨体を支えるほど傷が修復するのには時間がかかるようで、オロバスにこれまでのような動きが見られない。
「我ユグドラシル! 壁を造れ」
オロバスが素早く動くことができないうちに、土の精霊を召喚したミズホはドーム状の石壁でオロバスを包みこむ。
ミズホの目の間には人がしゃがんで入れるほどの大きさの穴があり、対角線上には煙突がついている。
「我サラマンダー! 敵を燃やし尽くせ」
人がなんとか通れるその穴から灼熱の炎が石の壁に閉じ込められたオロバスに注がれる。
「グヲオオオオ!!」
逃げ場のない中、炎に焼かれ、悲鳴をあげる。
真横に切られた身体の再生に時間がかかっている上に炎で焼かれて石の壁を壊すどころではないようだ。
「我シルフ! 風を送れ」
「ほう、短縮詠唱だけでなく、同時魔法も使えるとはなかなかやるな。だが生半可な炎ではオロバスは焼き尽くすことはできんぞ」
ミズホは炎と風を同時に送る。油と肉の焼ける匂いが煙突から漂う。
反射炉になっている石壁の中の温度は外から吹き込まれる炎の熱を反射しながら蓄積して千五百度を超えている筈だ。
ミズホは二人の姿を探すが、すでに広場から逃げているらしく、姿が見えない。
「頃合いか」
ミズホは炎と風を送るのをやめる。
「どうした。根負けか? その程度に炎ではまた再生するぞ」
「我ユグドラシル! 穴を塞げ」
筋肉マッチョなダンジョンマスターの煽りも無視して、金髪の美青年は炎と風を送っていた穴を塞ぐ。
「我ネプチューン! 水の塊を降らせ。我ユグドラシル! 穴を塞げ」
「熱してダメなら冷やしてどうにかなると思っているのか? 愚かだな」
人の大きさほどある水の塊が煙突から注がれるとすぐ煙突の穴も塞がれる。
それを見ていたジェロはミズホの次の一手を見ようとミズホへ向き直る。
「どこだ!? どこに行った!?」
ミズホはいつのまにかオロバスが閉じ込められた石で作られた炉を、広場の真ん中に置き去りにして消えていた。
「逃げたのか! まあ、それが最善だな。わはは……」
宙に浮いた黒光りするジェロの幻が笑い声をあげると同時に恐ろしい轟音と衝撃が広場中に響き渡った。
炉に注がれた水は一気に千七百倍の体積の水蒸気となり、密閉された炉の外壁を撒き散らしながら大爆発を起こした!
水蒸気爆発!
その衝撃はダンジョン中に響き渡るかと思われるほど大きく、幻のため、なんのダメージを受けないはずのジェロも思わず腕で自分の顔を守った。
「な、何が起きたんだ!」
砂ぼこりと水蒸気の霧が晴れた広場には、馬の下半身に六本腕の上半身を持っていたオロバスは跡形もなくなっていた。
「なんだ、これは!?」
ジェロはオロバスがどこにも存在しないことを確認するとその幻を消してしまった。
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