第9話 第九話 ダンジョンは何のために造られたの?
そこはダンジョンの中でも異常であった。
四頭建て馬車が十台入っても有り余るほどの大きな広場。
あちらこちらに光の球が浮いている。
石畳の地面には骨が散らばっていた。それは人の骨だけではなさそうだ。大型の肉食獣やオークなどの大型の亜人族と思われる骨も散らばっている。天井はどこまで続いているのか暗闇に遮られ確認できなかった。
その真ん中には一人の男が立っていた。
ミズホよりもふた回りほど縦も横も大きい。
その大きさは脂肪ではなく、異常なくらいパンパンに肥大した筋肉のためだった。
マッチョな身体にスキンヘッド。髪の毛だけでなく、眉毛もない。その目は細く、団子のような鼻。
花のような可憐なミズホとは対照的に男臭さが前面に押し出された顔。
太い首の下には上半身裸でその筋肉を見せている。
下半身にはぴったりとしたパンツから二本の筋肉が生えており、三本目の足が収まりきっていなかった。
黒光りしている男にクロフェが話しかける。
「あなたは誰?」
「よくぞ聞いてくれた、侵入者よ。我はこのダンジョンのマスターにして大魔法使いジェロなり。正統なる大魔法使いの家系リダゾ家の現当主だ」
およそ魔法使いとほど遠い肉体美をもって高らかに叫ぶ。
よほどミズホ様の方が魔法使いらしい風貌だ、とクロフェは思った。
「コマチ様はどこにいるの? 無事なの? 何にためにコマチ様を誘拐したの?」
ソリエは自分がダンジョンの入った理由を覚えていた。
「ああ無事にいるぞ。誘拐した理由だと! そもそもダンジョンがどういうものかわからないオツムの足りない者共には理解ができまい。わはっははは」
ジェロは腰に手を当て、フロント・ラット・スプレッドのポーズで高笑いをする。
「ダンジョンって昔の秘宝を守るためにあるんじゃないの?」
クロフェは一般的に言われているダンジョンの役割を口にする。
「わっはは、これだから乳に栄養をとられている女は馬鹿だと言われるんだ! このダンジョンには三つの役割があるんだよ。一つはマナの収集だ。お前たちがダンジョンにいるだけで我の所にマナが集まるようになっている。魔法を使ってもマナが集まる」
「ということは今も私のマナが吸い取られているの? それで集めたマナをどうするつもり?」
ソリエは自分の身体からマナがどこかから漏れていないか身体中を触る。
「集めたマナをどうするかだと! 尻がでかい女はアホだのう。我の生命維持と研究に使うに決まっているだろう」
「誰がアホなのよ! 研究って何なのよ!」
ソリエはお尻を手で隠しながら、叫ぶ。
「研究というのがダンジョンを作った二つ目の理由だ。我は完全なる生物を作る研究をしている。その材料がお前たち冒険者だよ」
「完全なる生物!? そんな者を生み出そうなんて神が許しません!」
ソリエは左手はお尻を隠したまま、びしっとジェロを指差す。
「神が許さないだと! これだからふともものムチムチした女は浅はかなんだ。お前たちはここで死ねんだ。最後の理由は我が作った完全生物の試し切りのためだ」
「ムチムチの太ももは正義なんです! そんな硬そうな体を持つ人にソリエの柔らかさがどんなに極上かわからないんです!」
胸を手で隠し、尻尾をピンと立てて威嚇のポーズをしながら、クロフェは叫ぶ。
「ちょっと待って、クロフェ。あの人、今、なんて言ってた?」
ソリエがクロフェの手をとって問いかける。
「ふともものムチムチした女は浅はかなんだって」
「いやいや、その後よ」
クロフェは人差し指を口元に当て、何かを思い出そうとするように斜め上を見上げる。
「私たちが完全生物の試し切りにされるとかどうとかって言ってなかった?」
ソリエのその言葉を待っていたかのように、広場の奥の通路から何かが近づいてくる音が聞こえてくる。
ずっと黙って一点を見つめていたミズホは柄に手をかける。
「ちなみに、貴様たちが見ている我はただの幻だ。切ろうが魔法を使おうが、実際の我には何の被害がないので好きにしたまえ。それでは我を楽しませてくれたまえ」
ミズホはそう言って上昇しようとするジェロとの間合いを詰めると、斬撃を繰り出す。
ジェロの言葉の通り、ミズホの刀はジェロの体を何の抵抗もなくすり抜けた。
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