解説

                    万きさ

あなたは無法者ですか?

 かく言う私は無法者である。日本には、1900余りの法律があるという。その内のいくつの法律を知っているだろうか。私は100も知らない自信がある。もちろん、1900の内の全てが個人の生活に直結するようなものではないだろう。だが、ルールを知らずにルールを守り続けるのは至難の業であ。

 この『無法者』という編は、言ってしまえば著者の習作である。所々に乱暴さが感じられ、流れは捉えにくい。その中で、一貫しているのは著者が考える悪という概念であろうか。

 表題作の『無法者』で描かれている男は、言ってみれば悪の予備軍である。男は、著者が考える一般的な日本人の典型である。男には善も悪もなく、ただただ悪意を持つタイミングがなかっただけだと。男に秩序の概念など無いが、ただ秩序を乱す振る舞いをしなかっただけなのである。そしてそれは我々も同じでは無いかと問いかけるのである。

 『遵法者』に出てくる二人は、既に牢に囚われており、恐らくは悪である。そこで先住の男は、新参の男に、それがこの世の真理であるかの如く話し始める。先住の男が幾年そこに囚われ、幾度その話をしているかは分からない。だが、悪意を持っていてもルールの中なら捕まらないというのは、まるで自分たちが悪意なく悪事を働いているかの様な言いようである。

 『ふしんしゃ』はそんな世界の行き着く先なのかもしれない。誰が悪なのか、誰が悪意を持っているのか、もはや全ての人を信用することができない、男はそんな疑心暗鬼に囚われる。そうなると、悪意から身を守る術は人を信用しないことだけである。

 『へんしつしゃ』では、ついには自分自信に悪意があるかすら分からなくなってしまう。人には悪意がある、その前提の元では自分の悪意を否定することすら出来ない。それは、もはや自分の意思と関係無く自分が悪だという性悪説の世界なのである。

 そして『キョウアク』で決意する、自らは悪である。悪意が悪意であると決めるのは自分自身に他ならない、そう悪びれもせず言うのである。そして作者はあなたに問いかける。あなたは正義なのか、あなたの中に悪意はないのか、迷いなくそう言い切ることが出来るのか。

 最後にもう一度あなたに問いたい。 


 あなたは無法者ですか?

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無法者 モリアミ @moriami

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