無法者

モリアミ

無法者

彼を一言で表すのなら、誰もが「普通」と言う。

彼は普通の家庭に生まれ、普通に学校に通い、普通に仕事に就き、普通に死んだ。

彼は特別に裕福ではなく、特別に貧しくもなく、何不自由なく生活した。

彼は学校でイジメに会わず、幾人かの友達がいて、社会に出て結婚し、子供も孫もいた。

彼は私立の大学に入り、大手の企業に就職し、定年まで勤め、老いて癌で死んだ。

彼はいたって温厚で、人に暴力を振るわず、社会の秩序を乱すことはなかった。

ただ、彼には怒る理由がないだけだった。

ただ、彼には人を殴る機会がないだけだった。

ただ、彼には法を犯す必要がないだけだった。

彼を一言で表すのなら、彼は「無法者」だった。

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