第41話:報告と相談
私たちは3日ほど滞在し、荒らされた里の復興作業を手伝った。
エルフたちの何人かは暴走していた時の私を見ていたらしく、最初の内は警戒心最大で近づく事すら出来なかったが、邪魔にならないところで無言で作業を続ける内になんとか認めてもらう事が出来た。
そして4日目の朝。
「それではツバキさん、私たちはこれで」
「⋯⋯復興支援、実に助かった。だが、本当にもう行ってしまうのか?ずっと働き詰めだったのだ、少しくらいゆっくりしていっても良いだろうに⋯⋯」
「⋯⋯お心遣い、感謝します。ですが予想以上に長く滞在してしまったので、そろそろ戻らないとギルドが心配しますから」
「⋯⋯そうか。いや、すまなかった。無理を言ってしまったようだ。⋯⋯では、ギルドからも報酬は出るだろうが、私からもこれを渡しておこう」
ツバキさんから渡されたものは、一振りの小刀であった。刀身には、何かの文字が刻まれていた。
「これは⋯⋯」
「私の護身用であった小刀に、一度限りの術を付与しておいた。発動すれば壊れるが、まぁお守り代わりに持っておくといい」
「⋯⋯良いのですか?」
「もちろんだとも。それは今回の依頼に含まれていなかった復興支援に対する手当のようなものだ。受け取ってくれ」
「⋯⋯では、ありがたく頂戴します」
受け取った小刀を懐に入れ、私たちは街へと出発した。
◆◆◆
「⋯⋯報告は以上です」
街に戻った私たちは、ギルドにて報告に来ていた。
ギルドマスターのバレンさんは、報告を聞いた後しばらく黙っていたが、ようやく口を開いた。
「⋯⋯任務の達成、及び報告ご苦労だった。黒ずくめの集団についてはこちらで調べておこう。まぁ、どこの勢力かは分かりきっているが⋯⋯」
ほぼ黒影団だろう事は間違い無い。
「それにしても、未知の獣とはな⋯⋯。あの森でそんなものが出た事など聞いた事が無い。⋯⋯そのような獣、他にもいそうか?」
「⋯⋯いえ、恐らくはあれだけかと思います。帰り道も探索しましたが、そのような気配はありませんでしたし⋯⋯」
ちなみに、機械技術については伏せておいた。あの死骸についても、ツバキさんにお願いしてエルフたちで処理してもらうよう頼んである。
どうなるか分からない以上、まだ機械については教えない方がいい。
「よし、報告は以上だな?⋯⋯それでは聞こうではないか。数日前、君が言いかけた内容を」
「⋯⋯はい」
やっと相談出来る。
助けたい一心でユニを守っている事。しかし、守っていけばいくほど敵の襲撃が大きくなっていく事。
そして、いつかは関係の無い人たちを巻き込んでしまうかもしれない事⋯⋯。
私は、今までの想いも含めた全てを打ち明けた。
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯」
「ふむ。つまり、今の君は何が正しい行いなのかを分かっていないと言う事か」
「⋯⋯」
その通りだった。
私は分からない。
何が正しいのか。
どんな選択をすれば良いのか。
一人の命か、街の数千〜数万人の命か。
一つの選択が、気づけば比べ物にならないほど重い選択肢を産み出してしまった。
「⋯⋯私は、どうすれば良いのか⋯⋯」
「簡単な事だ」
「え⋯⋯?」
「ユニを手放すか、君がこのギルド、ひいてはこの街を去るかだ。彼女を引き渡せば事は終わる。まぁ、彼女がどうなるかは知らないがね」
「⋯⋯」
ユニを引き渡せば、その先に待っているのは地獄だ。謎の拠点制圧兵器が起動し、街やこの国が滅んでしまうかもしれない。
それに、ユニ自身も死ぬかもしれない。
「この街を去れば、被害は出ないだろう。その代わり、君はどこの街へも入れないだろうね。入ってしまえば、無関係な人たちが巻き込まれるかもしれないのだから」
「⋯⋯」
悔しいが、ごもっともな話だ。
この街を出たところで、行く先々で襲撃を受けるのなら対して変わらない。むしろこの街にいた方が、知り合いがいる分マシなくらいだ。
「彼女を引き渡せば全ては終わる。だが、君はそうしたくは無いのだろう?」
「⋯⋯はい」
「⋯⋯本当ならあまり使いたくは無かったのだが、この際仕方が無い」
そう言って、バレンさんは引き出しから紙を取り出して何かを書き込んでいく。
そして、その紙を箱に詰めて私に差し出してきた。
「これを持って、魔道具屋ラ・フィーユに行け。そして、店主にその手紙を渡すんだ」
「アキナに?」
意外な名前を聞いた。いったいどうなっているんだ⋯⋯?
「行って、渡せば分かる。私自身、彼女の正体を知った時は驚いたものだが、今となっては彼女ほど頼もしい存在はいない」
「⋯⋯分かりました。行ってみます⋯⋯」
話が理解できないまま、アキナに会う事になった。
それにしても、ギルドマスターが驚くほどとは⋯⋯。
アキナの正体とは、一体⋯⋯⋯。
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