新米ソードマン、剣豪と行く
ろくろだ まさはる
第1話 伝承より
伝承は語る。
数百年前の偉大なる魔法使いと王国の争いは、およそ10年続いた。
魔法使いは、その尋常ならざる魔力で
争いの発端は宮廷付きだった魔法使いと国王との諍いと言われているが、
その真偽は定かではない。
だが、時が経つにつれ、王国は劣勢に立たされた。
魔法生物と人間との間には決定的な違いがある。
それは、魔法生物は疲れを知らない、という事だ。
疲れを知らない魔法使いの軍勢に王国は徐々に追い込まれ、
国民も疲弊していた。
長年にわたり平和を謳歌し、豊かだったこの国に訪れた悪夢は、人々の心を曇らせ、土地は痩せ細っていった。
その永遠に続くかと思われた悪夢に決着をつけたのは、王国の騎士達である。
彼らは決死の覚悟で魔法使いの居城に乗り込み、魔力の源である大いなる石を打ち砕いたのだ。
大いなる石は魔法使いの力の源、状況は一変し王国は勝利した。
だが、同時に世界はあるものを失った。
魔力である。
この世界に
その石が砕け散った事で、世界から魔力が喪失したのだ。
魔力を用いていたのは魔法使いだけでは無く、この世界に住む誰もが、多かれ少なかれ恩恵を受けていた。
根源ともいえる力を失い、王国は争い以上の悪夢を経験し、衰退の一途を辿った。
そして年月は経ち。
「びゃっくしゅっ!!!!」
戸口に立っていたニコルは大口を開け、盛大にくしゃみをかました。
生理現象だ、抑えられるはずもない。
目の前で新米にくしゃみをされたニールセンだが、存外気にする様子もなく。
「聞いているだろうが、先日の大地震の際に村外れの白い遺跡で崩壊があったらしい、ギルドへの報告の義務があるからな、1週間ほど村を離れる」
ニコルは、顔をくしゃくしゃにし、鼻水を
「お前はそんな状況だ、連れて行く訳にはいかん。村で養生し回復に努めるように」
「ずびばぁぜぇん」
「気にするな、医者の診断は風邪だったのだろう?雨の中、無理をさせたのはリーダーである俺の責任、謝るべきは俺の方だ。すまん」
そう言って頭を下げた後、ニールセンは任せろというように厚い胸板を拳で叩いて見せた。
「そうそう、調査の事は俺らに任せて、新米は寝てればイイのよ」
ニールセンの肩越しに金髪の優男がヒョイと顔を出す。
派手な装飾を身に着けているが、動作は機敏で音を伴わない。
普通の人間なら、後ろに立たれた事も気づかないだろう。
「大体、探索に行くってのに、外套忘れてくってどうなのよ?
あんなビッショビショになったら、オークだって風邪ひくっての」
男は
「しかも、帰った後も風呂に入らず剣の整備してたって言うじゃない、いくら錆びるって言っても、風呂入ってる間くらいは錆も待ってくれる・・・ッいってぇ!」
「もう良いってば!ゴールド」
ゴールドと呼ばれた優男の頬を
邪魔。とでも言うように抓った手で顔ごとゴールドを押しのけ、さらに前にいたニールセンの横に割り込み、女は強引にスペースを開けてニコルの前に立った。
「あんな事言ってるけど、一番心配してるのはゴールドだからね」
そう言ってニカッと笑う彼女の名前はサニア、その後ろに妹のシルビアが控えていた。
「なんだかんだ言って、優しい先輩なんだよねぇ」
シルビアは、ゴールドの方を向きニヤニヤと笑う。
うるせぇ!と反論するゴールドの声が聞こえてくるが、負け犬の遠吠えだ。
「うわ、照れてら。キモチ悪っ」
二人が後ろにいるゴールドをからかい始める。このパーティーでは馴染みの光景だ。
それを意識の外で聞きながら、ニコルは姉妹に目を向けていた。
サニアは短髪で背が低く、シルビアは長髪で背が高い。
一見すると妹に見られる事の多いサニアだが、それを楽しんでる節がある。
一方のシルビアは背の高さにコンプレックスがあり、いつも姉の身長を羨ましがっていた。
「おいおい、それくらいにしておけ。ニコルの体調が悪化したらどうする」
振り返り、宿屋の廊下で騒ぐメンバーを嗜めたニールセンだったが、姉妹に押されっぱなしゴールドが指を指し。
「いや、リーダー・・・・新米なんかもうフラフラになってンよ?」
遠のく意識でそんなやり取りを聞きながら、真っ赤な顔をしたニコルはゆっくりとサニアに倒れ掛かっていた。
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