プラモデル、動画配信、ストーカー

いがらし

第1話(完結)

 探偵の仕事をしてると、ストーカーの相談をたびたび受ける。

 目の前の女性も、泣きながらストーカーについて語りだす。

「半年ほど前から、プラモデルにはまったんです」

「プラモデルがきっかけで、ストーカーに狙われてる?」

「はい。組み立ててる時のことを撮影して、

その動画をネットにアップしたんです。

沢山の人に見てもらえたし、最初のうちは、コメント欄で

プラモデルについて色々なアドバイスをもらえて楽しかったの。

それが、だんだん嫌な言葉が増えてきて……」

「なるほど。動画を見せてもらえますか」

「これです」彼女がスマートフォンを差し出した。


   ユミユミです。こんにちはー♪

   ついに、限定版を買っちゃいましたー♪


 目の前の女性が出してるものとは思えない、高い声。

高いテンション。慣れない手つきでプラモデルを組み立てる……、

 おや?

「画面に映るのは、あなたの指先とプラモデルだけですね」

「動画には顔も本名も出してません。それなのに、私が住んでる

マンションのポストに脅迫状が何度も届くようになって。

しかも、その脅迫状、切手が貼られてないんです」

 つまり脅迫状をポストに直接入れた? マンションまで来てる?

 ストーカーの中でも、これはかなり悪質で危険だ。



 脅迫状も見せてもらう。安物の便箋に印刷された長文だった。

『弓長由美へ。もう三回も警告した。動画の配信をやめろ……』

 動画の何が許せないのか、配信をやめなければ必ず殺すと連呼。

「こいつの頭がおかしいことだけは理解できました。

ところで、あなたに執着する人に心当たりはありますか?」

「二人います。一人は、似たような内容の動画を配信してます。

動画の編集について色々教えてくれたんだけど、だんだん……」

「だんだん、嫌な言葉が増えてきた?」女性はうなずく。

「もう一人は、ホビーショップの店員です。プラモデルについて

色々教えてくれたんだけど……」経緯は同じらしい。

「だけど、その二人は私の住所を知らないはずです。

もう会ってもないしメールも送ってないし。プラモデルは

メーカーに直接注文して運送会社の人が届けてくれてます」

 そうか、嫌な言葉をかけてきた二人から離れようとはしてる。

 何か引っかかるものを感じた探偵は、さっきとは別の動画を見る。

『ユミユミです。こんにちはー♪』……この挨拶が恒例らしい。

 そして、コメント欄には下品な言葉が並んでる。

ストーカーが書いたのだろうか?

「動画の中で、本名を出したりはしてないんですね」

「動画の中ではユミユミとしか名乗ってません」

「あなたの本名が弓長由美(ユミナガユミ)だから、ユミユミ?」

 女性がうなずくのを見て、探偵は考える。そして……。


 さて、探偵は何か思いついたようです。ストーカーとは?




   もう六回も警告した。それでもあの女、配信をやめない。

   制裁が必要だ、あの女が悪いんだ……。

   俺はドアの前に立つ。そしてチャイムを押す。

   俺はナイフを強く握る。ドアがゆっくり開く。

   ……目の前には、見たこともない男が立っていた。



「すごい音がしましたけど、大丈夫ですか?」

「ストーカーを投げ飛ばしてやりました。もう安心ですよ」

 探偵の足元には、運送会社の制服を着た男が転がっていた。



「そもそも、繰り返し脅したら、相手は警戒しますよね。

それなのに、なぜ何度も脅したのか。それは自信があったから。

あなたを必ず殺せる自信があったからです。

……おっと、怖い言葉を使ってしまいました。失礼。

つまり、警戒されることなくあなたに近づける人だったんですよ。

あなたに執着する人は、動画配信者やホビーショップ店員の

他にもいたわけです。ただ、運が悪いことに、そいつは

運送会社の社員で、あなたの住む町が担当だったんです」

「運送会社の人なら、配送先について詳しくなることは

あるでしょうね。でも、私は動画の中で顔も出してません。

あの人はどうして、私が動画のユミユミであることに

気づいたんですか?」

「プラモデルという共通点があり、名前も似てるからでしょう。

『メーカーからプラモデルがたびたび送られてくる弓長由美』と、

『動画の中でプラモデルについて語るユミユミ』ですから」


 遠くでパトカーのサイレンが聞こえる。

 探偵はゆっくり深呼吸した。

ナイフを持つストーカーに立ち向かって、体がまだ震えてる。

それでも彼は、明るい口調で説明した。

「ユミユミと名乗るのではなく、本名の弓長由美から

大きくかけ離れた名前を使ってたら、

ストーカーに気づかれなかったと思いますね」

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