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フロムキシュウ

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「勇者殿よ。お主が持つ神器は知っての通り森羅万象を操るものだ」

「はい、でも僕はまだこいつの真の力を引き出せていない──この神器の秘密を知りたいんです」

「……それはお主にとって幸せな真実とは限らぬぞ」

「それでもです」

「そうか、ならば全てを話そう」

国王陛下は勇者にそう告げると、奥の部屋へと入っていった。ややあって勇者に後を追わと、部屋一面におびただしいほどの文字が映し出された。

「これは……」

「ここに記されているのはこの世界の理そのものだ」

「どういうことです?」


「射ち出した矢の軌道、それが敵に与える威力、風が吹いたときに木々がどのように揺れるか、光がどのように当たりどのような色に見えるか……この世界を構成する全ての物体とそれらの相互作用による全ての現象はこうした文字の羅列によって規定されているのだよ。そしてそれは"外なる存在"によって記されたものだ」

「おっしゃっている意味がよく分かりませんが……?」

勇者の困惑したような顔を尻目に国王陛下は話を続けた。


「物語の書き手が物語の中にはおらぬように、創世の神とは世界それ自体の中にはおらぬ高次の存在であるということだよ。そしてその神器はこの世界の中に居ながらにしてこの世界の理を操作できる──つまりこれらの程序プログラムに内側から干渉編集できる代物なのだ。お主らはこの神器の力を何か強大な魔法の類と考えているやもしれんが、この神器は水を氷に変えたり炎を発生させたりという魔法とは次元が異なるのだ。それらは"ある条件においてこうなる"という程序の中で完結したものに過ぎないからな」


勇者がこれまで旅してきた世界の景色の数々が映し出される。

「その気になれば魔王や魔物の存在そのものを無かったことにもできるというものなのだよ、その神器は」

「何だって? じ、じゃあ」

いやいや、と国王は首を横に振った。

「そう簡単にはいかぬよ。考えもなく世界の作用そのものを揺るがすことは"蟲"の発生に繋がるのだ。常に辻褄の合う操作が神器の使用には求められる」


「すみませんが、僕には陛下の意味するところがよく分かりません」

「勇者殿、お主には分からずともよい。余は──」

国王は勇者から視線を外すと、まっすぐにの方を指差してきた。

「この話、全て聞いておっただろ。お主には分かるはずだ。何を言っているのか」

露骨なまでのカメラ目線で国王は私に語りかける。


「程序に従ってしか動かない余らと違ってこの勇者殿だけに神器が使えるのはお主、すなわち"外なる存在"が勇者に宿っているからなのだ」

「おいおい、こいつは一体何の冗談だ」

そうやって独り言をいうと、私はさっき食べたスナック菓子の空袋の上へとコントローラを放り出してしまった。

八十時間もプレイしてきてオチがこれかよ。なんてゲームだ。

画面の中ではなおも国王がこちらに語りかけていて、勇者は全く何を言っているのか分からないといったふうに困惑し続けている。


ゲームの中のキャラクタが「これはゲームです。私はプログラムの通りにしか動きません。でも勇者はあなたが操作してるから特別です」なんて普通言わんだろ。作品の中の人間は自分が外なる世界の誰かが創った物語の登場人物で、そこに書かれた筋書き通りにしか動かないのは当たり前だ。それを自覚しているなんておかしい。


物語の中の人物ってのは決められた運命を辿りながらもそれが自分の意思だと思っていなきゃおかしいんだよ。誰かがそれを書いて、しかもそれを誰かに観られているなんて知ってるはずなんか──

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