口下手でも君が好き
みなづきあまね
口下手でも君が好き
さあ、今回こそはなんか自信がある!今週こそはきっと笑顔で、そこそこ話も弾むとか、向こうから声を掛けてくるとか。そういう進展があると思う。だって、週末に連絡したら仕事の相談が終わって私がやりとりを切ろうとしたのにも関わらず、プライベートな話をふってきて、なんだかんだ24時まで続いたんだから。これで私のことを嫌い、だなんて言わせない。・・・いやあ、好きでもないのかもだけど。
私が好きな人は基本寡黙。といっても、全く喋らないわけでもなく、話しかけられたり、得意分野についてはべらべら喋っているイメージ。見た目は運動男子で草食系には全く見えないんだけど、チャラかったりするわけでもなく、いっちゃ悪いけど、「むっつり」・・・いや、それは言いすぎか。真面目なの、真面目。でも付き合ってる同僚のタイプや学歴を見る限りは、女子慣れしてないと思うんだけど。・・・私の希望的観測。
彼とは仕事の都合上連絡を取っている。とはいっても、月に1~2回で、2回あれば多い方にカウントされる。最近は仕事の話が終われば、彼がプライベートの話を振ってくることが増え、そうなると結局夜中までぽんぽんと話が続くことも少なくない。
脈ありかどうかはレスポンスの速さではなく、内容で判断しなさい!とネットに書いてあるのだけれど、そうするとあまり私に興味は持ってなさそうで、自分の話ばかりしてくる。同意とかはあるけど、もっと質問してほしいんだけど・・・っていつも不満。彼女でもないんだけど。普通、好きだったら質問攻めすると思うのだけど、プライドの高い男の人とかはそうじゃないのかなあ?と、いつも悩んでばかり。
さて、1週間が始まった。小雨が降る中、会社の最寄り駅に降り立ち、会社への一本道を歩いていた。ばったり会ったりしないかな~とか無謀にも考えていた時、30メートル先くらいに、まさかの!本人!
彼は私を認識して、こちらに顔を向けた。すれ違いざま、挨拶をしてくれた。
「おはようございます。」
「あ、おはようございます。」
私は若干小首を傾げるような感じで、満面の笑みで返事をした。うーん、なんか今日はやたらと余裕がある!あれだけ楽しくやり取りした後だから、自信があるのだ。
素敵な朝を堪能し、お昼前まではばたばたと仕事をこなした。別の階で用事を済ました後オフィスに戻ろうと角を曲がった時、ばったりと彼に遭遇。ちょっと距離があったが、彼は私を見たので、私はお疲れ様ですと声を掛けたが、ここでも攻める!私は小走りで彼の名前を呼びながら近寄って、
「先週末はありがとうございました!」
と連絡した時の対応にお礼を述べた。
「いえ。」
「結局解決はしなかったんですけどね。追加でやらなくちゃいけないことも増えて・・・どうしようかなあって感じですけど。」
・・・返答なし。めげない!
「新しいチームはどうですか?」
「あー、まだ何とも。始まったばかりですし。」
「そうですよね。今は皆猫被ってるでしょうけど、数日したら変わるでしょうし!」
・・・あー、もうオフィスの入り口、タイムアウト!
自分の席についた私はむすっとしながらパソコンの画面をにらんだ。なんで!?あんなに仲良さげに話したのに、現実世界ではこうもそっけないの?照れ隠しとかだったらいいけど、やっぱり私のこと好きでないのかなあ・・・というかどうにも思っていないというのが有力候補かも。あー、嫌われてないだけましだけどさあ。
どうしても直接顔を合わせると話が盛り上がらない件で悩んで、早半年。いつになったら心から打ち解けたな~って実感できるんだろう。たしかに、何度かは冗談を言い合って腕を叩いたりしてちょっぴり甘い時間もなくはなかったけど、そんなのレアケースだもの。いつも彼と別れてから一人反省会。
はあ、とため息をついて席を立ち、備品を取りに棚へ歩いた。必要なものを手に取り振り返って自席に戻ろうとすると、部屋の真ん中で別方向から歩いてきた彼とばったり。思わず身構えて、自分の両腕を手で抱いて防衛態勢!好きなのに緊張からいつも腕を組んじゃうのは何故だか自分でもいまだに理解できないのよね。
「どうぞ」
私は左手を開放し、彼に道を譲った。
「いや、どうぞ」
彼も同じように道を示し、ふっと笑った。
その笑顔が今朝見た笑顔と似ていて、すぐ心がふにゃっと溶けてしまった。
どんなに会話が弾まなくても、やっぱり好き!あの目で見つめられてるだけで全部溶けちゃいそう。それに免じて今日も「ま、いいか!」で一日が終わりそうです。
口下手でも君が好き みなづきあまね @soranomame
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます