第162話 扉
その扉は何年も固く閉ざされていて
誰もが触れることさえしなかった
扉を開ける鍵は無惨にも錆び付いて
その前に打ち捨てられていた
長い間閉ざされていたその町の
人々は外の世界を知ることもなく
内と外をつなぐはずのその扉は
存在すら忘れ去られていた
そこへ現れたのは一人の男
彼は人知れず外の世界を夢見ていた
いつか違う景色を見てみたい
そんな思いを込めて扉に手をかけた
叩き、蹴り、体当たりし
それでも扉はぴくりとも動かない
手は腫れ上がり血は流れ
それでも彼はあきらめない
何人もの人がそんな姿を見て嗤った
「あいつは気でも狂ったのか」と
それでも彼はただ見たかったのだ
扉の外に広がる新しい世界を
やがて彼の体力は底をつき
荒野の上に崩れ落ちた
目の前に転がる錆びた鍵を握りしめ
荒い呼吸のままうなだれた
「なぜ外の世界を見せてはくれない」
彼の嘆きは悲壮感を持って風に流され
その無念がこの地に満ちた
一途な外への思いが広がった
そのとき金属のこすれる重い音がして
目の前の扉がゆるりと開き始めた
彼は目を見開きその光景に見入る
ギシギシと軋みながら開く扉
不意に開かれた外の景色に
彼は声さえ出せずに息を呑む
やわらかな風が吹きわたり
広がる青空は遠くまで満ちる
ああこれが外なのか、と
彼は血まみれの腕のまま笑った
それはこの世界と何一つ変わらない
あまりにも違う外の景色だった
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