太陽が眩しかったから

ぽてち

第1話 夏の音

夏だった。空には雲一つ浮かんでいない。


ついさっきまで走っていたのもあってただでさえ暑い日なのに余計に暑い。そんな暑さだからだろうか、セミが鳴いているような気すらしてくる。だが実際には鳴いていない。


場所が場所だ。だがもし今泣いているならその鳴き声は泣いているように聞こえたんじゃないだろうか。どうしようもなく感傷的だ。そしてこんな感傷的な気分に俺をさせている張本人が目の前に立っていた。


彼女は一瞬驚いたような顔をしてみせたがすぐにその表情を隠した。場所は分かりやすい場所ではあるしそんなに驚くことでもないだろう。だったら俺がそんなに白状にでも見えたのだろうか………それは分からないが取りあえず彼女がいたことに安どする。もしいなかったらまた走って違う場所を探さなければいけなかった。ついさっきまで走っていたからか呼吸がまだしづらい。落ち着くまで息を整わせる。


少し落ち着いてくると汗で服がべたついているのを感じられて気持ちが悪い。そうこうしていると彼女が目を見開いてこちらを見ていた。今にも言葉を発する寸前といった感じだが、本当に待ってほしい。ここまで来たものの何を言えばいいのか、言っていいのか、分からないから。


────────────


飛行機が俺たちの上を過ぎ去っていく。彼女が何かを言ったようだが聞き取ることは出来なかった。彼女は黙り込む。俺も黙り込む。言葉が空転して消えていく。何故こんなことになったのだろうか。


思うにどうしようもなかったんじゃないかと言う気がする。彼女にとっては本当にどうしようもないことだったんだろう。それはありふれたどうしようもなさなのかもしれないが、そのありふれたどうしようもなさを目の前にして人類は大いに悩み思考を重ねてきた。そして俺にとっては彼女のどうしようもなさを理解できないと言うことがどうしようもなかった。俺のこんな感情もありふれた何処にでもあるものなのかもしれない。でもどうしようもない。こんなにありふれているのに。


彼女は俺の所為ではないと言った。それが本当かどうかは知らないが、本当だったらそれはそれで少し思うところがある。この世界のどうしようもなさに俺は何にも太刀打ちできないで終わるのか、と。だったらきっと俺が遠慮することはない。彼女が俺の所為じゃないと言うなら、俺は彼女に傷をつけよう。どうしようもない世界に抗おう、まだやりきったなんて俺も彼女も言えないはずだから。


だがもし、それで彼女が本当に傷を負ってしまったら、その時は─────


さぁ、どうするかは決まった。やることが決まればあとはそれを実行するだけだ。

走ってきた時の呼吸の乱れも完全に落ち着き冷静になるとフルートの音が聞こえた。セミの鳴き声ではないが屋上を照り付けるさんさんと輝く太陽と合わせて夏を演出している。

なんてことはない毎年訪れるありふれた夏

だからありふれた青春の二文字で纏めてこの夏を終わらせよう。


飛行機雲が消えていた

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